大日堂舞楽 ユネスコ無形文化遺産登録記念
 2009年9月30日、国重要無形文化財に指定されている鹿角市の大日堂舞楽が、ユネスコ無形文化遺産に登録された。これを記念し、2010年3月6日、県内外の民俗芸能を一堂に集めた「ブンカDEゲンキ 無形文化遺産の共演!」が秋田市の県立武道館で開催された。共演は、以下の4つ。

保呂羽山の霜月神楽(横手市、国重要無形民俗文化財)
早池峰大償神楽(岩手県花巻市、ユネスコ無形文化遺産)
佐陀神能(島根県松江市、2010年ユネスコ無形文化遺産候補)
大日堂舞楽(鹿角市、ユネスコ無形文化遺産)
保呂羽山の霜月神楽(国重要無形民俗文化財、横手市大森町)
 保呂羽山(438m)に建つ波宇志別(はうしわけ)神社の神事芸能。神に今年の収穫を感謝し、五穀豊穣、無病息災を祈る伊勢系統の湯立神楽で、霜月(11月)の7日夕刻から翌朝にかけて、八沢木・大友氏の神楽座で行われる。
▲「湯加持」
 この神楽の特徴は、湯立の行事を伴う点である。楽人一人が塩と散米で釜を祓い、笹を束ねた湯ホウキを両手にとり、釜に浸し、幣束で釜を祓い清める。それを何度も繰り返す。これは日本の神々が、いかに忌みや穢れを嫌っているかをしみじみと味わうことのできる芸能とも言われている。
▲古式ゆかしい巫女舞「保呂羽山舞」
 霜月神楽は、巫女舞が多いのも特徴。二人の巫女が舞う「剣の舞」や「保呂羽山舞」「天道舞」など古式ゆかしい神楽が次々と奉納される。
▲「山の神舞」
 神楽33番のうち、19番「山の神舞」が一番重要とされている。鳥かぶと、白狩衣、両タスキの楽人が、まるで神が乗り移ったかのように荒々しく、激しく舞い狂う。
▲神入舞・・・真剣二振を持って舞い、四方の邪悪を切り払う舞
早池峰大償神楽(岩手県花巻市、ユネスコ無形文化遺産)
 早池峰大償神楽は、北上山地の主峰・早池峰山の山麓に住む山伏によって語り演じられてきた山伏神楽である。500年以上の伝統をもつ非常に古い神楽で、今でも40番以上の演目を伝えている。この神楽は、大日堂舞楽と同様、2009年9月30日、ユネスコ無形文化遺産に登録された。
▲天降(あまくだり)
 さるたひこ(手前真中)は、鼻の高い赤の天狗面を着け、激しい各様の四方鎮めを舞う。その後、天孫(写真両サイド)の神々の先達、うずめが出て問答となる。うずめは、天孫が天降る道に、お前はなぜ立ちふさがっているのかを尋ねる。さるたひこは、天孫の天降りを神力で悟りお迎えに参じ、いざご案内をと答えた。かくて天孫は、さるたひこの案内によって無事に天降りができるというストーリー。
▲鞍馬
 唐の天狗の首領「是界房(ぜかいぼう)」(写真右)が、鞍馬山で修行中の牛若丸(写真左)を尋ね試合を挑む。しかし、是界房はものの見事に負けるというストーリー。棒使いの是界房と牛若丸の戦いは、根子番楽の「鞍馬」同様、番楽風の舞である。
佐陀神能(島根県松江市、2010年ユネスコ無形文化遺産候補)
 佐陀神能は、「能」方式という独特の形をもち、洗練された神楽という点で、他に類するものがなく、出雲神楽の源流と言われている。構成は「七座神事」といわれる神事の式次第から発達した採物舞と、お祭りの後の神法楽として「式三番」、神話を題材とした「神能」の三部構成となっている。
▲恵比寿
 左手に持っているのは、竿と釣り上げた魚で、豊漁を祈願する舞である。洗練された能形式の神楽は、東北の無形民俗文化財との違いが際立っている。これは、出雲と東北の歴史・風土の違いを反映しているように思う。
▲八重垣
 「古事記」に登場するスサノオノミコトがヤマタノオロチを退治するストーリー。ヤマタノオロチは、恐ろしい形相の面をつけ、背中には草木が生えている。
大日堂舞楽(鹿角市、ユネスコ無形文化遺産)
 「無形文化遺産の共演!」のメインは、民俗文化の宝庫・秋田が誇る大日堂舞楽である。約1300年前から伝わる県内最古の舞楽で、養老年間(717~724)、大日堂再建のため、都より遣わされた名僧・行基とともに下向した楽人によって舞われたのが起源と言われる。

 この舞楽に参加する能人は、大里、谷内、小豆沢、長嶺の4地区の氏子たちである。長い歴史をもつ素朴な伝統行事、厳かな神事の舞いは、まさに「神々の舞い」と呼ぶにふさわしい。それだけに、これまで門外不出の古典舞楽であったが、ユネスコ無形文化遺産登録を記念し、秋田市で初めて9演目のうち6演目が披露された。
▲神子舞・・・能衆が「天の神」を礼拝する舞とされる。右手に鈴、左手に紙垂をもち、両手を広げたり合わせたりしながら舞う。 ▲神名手舞・・・「地の神」を礼拝する舞とされる。右手に紙垂をもち、両袖口を合わせたり広げたりしながら舞う。
▲駒舞(大里集落)
 シデ笠をかぶり、胸に木製の馬頭をつけ、笛,太鼓の囃子で、7節を舞う。
▲鳥舞(大里集落)
 だんぶり長者飼育の鶏の舞いといわれ、子ども3人がオス、メス、ヒナの鳥かぶとをつけ、右手に日の丸の扇を持ち、オスは左手に鈴を持って、笛、太鼓の囃子に合わせて3節を舞う。
▲五大尊舞(谷内集落)
 だんぶり長者の舞いともいわれ、袴、脚絆、打越をつけ、白梵天と面をつけ、大刀を貫き持って、大博士は左手に鈴を持ち、太鼓と祭文、板子の囃子に合わせて舞われる。
▲工匠舞(大里集落)
 大日霊貴神のご神体を彫刻する姿を舞い表した匠の舞といわれ、大里の能衆4人によって奉納される。バチドウ舞ともいわれる。

鹿角市八幡平の大日霊貴(おおひるめむち)神社で、正月2日に演じられる。元旦の丑の刻から耕作祝いが各地区で行われ、2日の夜明けに行列を組み、凍てつく雪道を高張提灯、太鼓、笛、幣束、ササラ、鼓を持って大日堂に集まる。本舞が始まるのは午前十時頃で、境内内は見物客やカメラマンでひしめき合う。
参 考 文 献
「ブンカDEゲンキ」配布資料
「秋田祭り考」(飯塚喜市、無明舎出版)