小正月行事 出はーれ、出はれ!〈羽後町〉

平成23年1月15日
西馬音内盆踊りで知られる、羽後町・西馬音内
1月15日、舞い散る雪の中 この地に受け継がれる小正月行事・「出はーれ、出はれ」が行われました。この行事は、前年に新築した家庭や、花嫁・花婿がきた家庭などお祝いごとのあった家、または商店が「出はーれ、出はれ」と叫びながら集落を歩く地域住民に向かってみかんまきをする、なんとも面白くて伝統のある行事です。
   
18時 みかんまきスタート

バザール西馬音内店には、スーパーへの買い物客のほか、ビニール袋を持参して準備万端の方など大勢の方が集まりました。お店の屋根から何十箱というみかんが撒かれ、大きな歓声を沸かせました。 すぐに西馬音内盆踊り会館に向かって大移動。こちらでも副町長らの挨拶を皮切りに、みかんが景気よく空を舞います。「みかんまき」という言葉が連想させるイメージとは異なり、激しい「動」のイメージに驚かされました。
   
みかんまきが2か所で盛大に撒かれたあと、住民の皆さんはそれぞれの町内に分かれ、
慶事のあったお宅を訪問します。かつては、「出はーれ、出はれ。出ねぇばエセル(訳:出てこい、出てこい、出ないと悪戯するぞ)」と叫び、その年、対象となる家庭でみかんを撒かなかったり、出てくるのが遅いときは、家の戸に雪玉が投げつけられたり、雨戸を破ったりもされたそうです。ハロウィンにも似たこの小正月行事に、現在も子どもからお年寄りまでもが参加しています。
 
西馬音内 寺町地区
黒沢篤志さん、紗恵子さんご夫婦
黒沢さんご夫婦は昨年11月にご結婚。お二人とも羽後町出身ですが、紗恵子さんはこの行事が西馬音内地区で毎年行われていることを知らなかったそう。このみかんまき行事は西馬音内地区を除く他の地域では年配の方しか知らないほどの小さな行事です。

夫の篤志さんは「みかんまきは、小さい頃から参加してきた行事。今年は撒く側で、すごく楽しみにしていた。」と話し、紗恵子さんは「こんなに活気がある行事だとは知らず、たくさんの人が集まってびっくり!」とお話し下さいました。

篤志さんのお母さん、そして おばあちゃんもお嫁にきたときに、この行事でみかんを撒いたそう。地域に残る小さな伝統行事に、若い二人が誇りをもって参加し、また一世代受け継いだことに大きな意味があったのではないでしょうか。

   

黒沢さんのお宅に、近所の方や中学生が多く集まりました。みかんを仲良く分け合う彼らに、「気を付けて帰れよ」と声を懸ける篤志さんと紗恵子さん。みかんまきが行われるひと時は、まるでサバイバル。しかし、祭りのあとの新婚夫婦と集落の皆さんが交わす「これからよろしくお願いします。」という挨拶に、また強く結ばれていく人と人との繋がりが見えました。

  
西馬音内 大山地区
福井博美さん、加奈子さんご夫婦
昨年12月に結婚されたばかりの福井さんご夫婦。お二人とも羽後町出身です。博美さんは「モヘたげる」のが大好きなんですって。皆さん、分かりますか?モヘとは、その場の空気が楽しくなりつつあるときに、更にその場を盛り上げようとする行動、人を喜ばせようとする行動、もしくはその心意気のことを言う羽後町方面の方言です。そんな博美さんと加奈子さんの周りにはチビッ子たちがたくさん集まりました。大いに盛り上がったのは言うまでもありません。

新築、車庫の増築、博美さんのお兄さんのご結婚、そして今回福井家4度目のみかんまき。その頻度を考えると、お祝い事の多いご家庭と言えるのではないでしょうか。幸せいっぱいなお二人の周りは、笑顔が絶えませんでした。

一家総出でみかんまき。博美さんのお母さんは、「息子がお嫁さんをもらって、ゆっくりしました。それに、皆さんが我が家にもみかんを拾いに来てくれて嬉しい。」とお話し下さいました。昔は、みかんの代わりに「盃」を撒いた商店もあったそうです。
   
みかんまきの後は、各家庭で親戚や奥様のご両親、そして友人らを招き、更に盛り上がるのがこの行事のつづき。なんと初対面にも関わらず、私までこちらのお祝いの席にお邪魔させていただいたのです。
なえんもねんしども(何もありませんが)」と言いながら、博美さんのお母さんと加奈子さんがご馳走を並べてくださいました。

みかんまきが始まる前、黒沢家でもおばあちゃんがたくさん料理を出して下さったんです…。皆様のおもてなし、優しさに感服。

 *この場にいらっしゃった、JAうごの公式ブログをご担当されているS様。実はブログタイトル「なえんもねんしども」の由来は、親友・博美さんのお母さんのお言葉からきているそうです。秋田らしい、羽後町らしい謙虚で温かい方言です。

 
みかんをまく理由
この小正月行事、なぜ餅ではなくみかんをまくのか。
集落で伝承されている小さな祭りだけに、詳しく記された資料はわずかでしたが、地域の皆さんから様々なお話をお伺いできました。

羽後町ではご存知の通り、みかんが採れません。だからこそ、昔この地域では珍しい食べ物、貴重なものとされていたはず。また、みかんの橙(だいだい)色には、「代々栄える」と縁起をかつぐ意味があります。その祝いの食べ物を、慶事のあった家庭が、集まった人々にまくことで、「幸せのおすそわけ」という意味合いがこの祭りにあったと考えられているそうです。
 
 

豪雪に見舞われる羽後町・西馬音内。
降り続く雪に嘆きながらも、この小正月行事へ寄せる地域住民の思いは
とても明るく、実際にこの祭りは参加者の笑顔で溢れていました。
西馬音内地区の住民は、この奇異にも見てとれる風習に、「伝統」といった
重みある言葉より、気負わず、ただ純粋に「楽しみ」を見出しています。
核家族が増え続ける時代の流れに背くように、一家総出で地域の
伝統行事を、ごく当たり前に伝承している羽後町の人々。
これまでの取材で、伝え続けることの難しさを目の当たりにしてきた
私にとって、とても新鮮に映りました。
 


今回、取材させていただいた二組の新婚カップル。
図々しくもお言葉に甘え、家族の方にもお話を伺えたことで、
「みかんまき」を取材できた以上に、羽後町に住む方たちの人柄や
家族のあり方など、肌で感じる大切なものを学んでこれました。
雪が降る中、手を振って見送っていただいた皆様に感謝申し上げます。
「幸せのおすそわけ」を確かにたっぷり受け取って。

 

県南担当 けこさん