平成22年度ふるさと・水と土県内研修会

 自然と共存し維持されてきた農山村地域。
 この地域を守り育む活動に取り組んでいる「ふるさと水と土指導員」と「Akita活力人セミナー受講生」など16人が参加して、由利本荘市矢島町・鳥海町にて2011年2月18日~19日、「平成22年度ふるさと・水と土県内研修会」が開催されました。
 発表
参加者同士の交流をとおし秋田の農山村のもつ魅力を再発見し、
そこでの生活・住民活動・伝承文化といったものをどう守っていくかを学ぶ場となりました。

▸「ふるさと・水と土県内研修会」…中山間地域の農地などが持つ多面的機能の維持、役割や活性化等を都市住民等の参加促進を目的の一つとした取り組みで、『秋田県中山間地域土地改良施設等保全対策事業(ふるさと水と土事業)』の一環として毎年実施されています。

「ホテルまさか」2F窓から見える早朝の景色

 早朝の鳥海町(「ホテルまさか」2F窓より)。民家の1階がすっぽりと埋まってしまう程の豪雪地帯である。

◆1日目日程表:2月18日(金)

 ●「日新館」にてあいさつ、オリエンテーション

 ●説明:農山漁村活性化に向けた人材育成の取り組みについて

  (県・農山村振興課 副主幹 阿部浩樹)

 ●講演:NPO法人四季の学校の取り組み~おれたちの分校を残そう~

  (NPO法人 四季の学校・谷口 理事長 庄司博司)

 ●「天寿酒造」にて現地視察後「山のいこい」にて指導員活動報告

 ・西仙北GT推進協議会と百笑村

 (西仙北GT協議会 会長 佐々木義実=指導員)

 ・秋田県における高齢化集落の実態とその対策の展開について

 (県・活力ある農村集落づくり推進チーム 主幹兼班長 千葉俊成)

◆2日目日程表:2月19日(土)

 ●ホテルまさかにて事例報告

 ・鳥海地域における取り組み

  ~アケビの持つ無限の可能性~

  (鳥海町中直根集落 若勢会代表 真坂好喜)

 ・矢島地域における取り組み

  ~関係性のなかで語る自分、地域、観光~

  (NPO法人 矢島フォーラム 代表 太田良行=活力人)

 ●意見交換:秋田版「水土里の語り部交流会」

  ※秋田県農林水産部農地整備課主催

平成22年度中山間ふるさと・水と土「県内研修会」の様子

 農山村振興課吉尾聖子農山村ビジネス推進監が開会あいさつ。

「四季の学校・谷口の取り組み」講演の様子

 「四季の学校・谷口の取り組み~廃校を利用した農村体験~おれたちの分校を残そう」と題し、「NPO法人四季の学校・谷口」の庄司博司さんによる講演。

庄司博司氏

【庄司博司さんの講演(抜粋)】

 

 山形県金山町で平成8年、110年の歴史に幕を下ろした金山小学校谷口分校。

 「閉校したからと学校を取り壊してしまったら、地域の宝が失われる」と危惧。閉校した校舎を活用し、農村体験活動が可能な学校「四季の学校・谷口」と、手打ちそば体験が可能な「谷口がっこそば」へと生まれ変わらせるまでを紹介。

 

社会教育へ貢献…「自遊自学の精神」をモットーに、ありのままのスタイルで四季にわたり農村体験をする中で、仙台など他地域との交流が生まれた。

地場産業を振興地域の食材や道具を可能な限り使用した。新しいスタイルの観光地として認知された。

地域雇用の創出…地域のお母さんたちの雇用が生まれ、谷口全体が元気になった。

 また、この経済活動で校舎そのものの改修も可能となり、痛んでいた屋根の葺き替えや浄化槽設置により水洗トイレ化されたことなど、利便性にも大きく影響した。

 「分校にこだわっていたら、山の中の辺ぴな学校のままだった。思い切って廃校にしたことで新しい交流が生まれた。これらが叶ったのは、地域の人々の協力・外部の様々な方々の支援があったから」と力強く語る庄司氏。

●天寿酒造現地視察 

天寿酒造現地視察

 天寿酒造現地視察。案内してくれた大井仁史常務。

天寿酒造内部

 天寿酒造内部。酒のラベルを自動で貼り付けるが、必ず人の手で確認が行われる。

酵母の説明を受ける

 酵母の説明を受ける。

備蓄された原料米

 備蓄された原料米を見つめる。

●研修―指導員活動報告他(鳥海・「山のいこい」にて)

ホテルまさかでの研修風景

 体験工房「山のいこい」での研修風景。真坂氏が平成8・11・14年と、幾度にも分け時代に沿って改修した工房で、これまで大勢の修学旅行生や個人での体験者を受け入れてきた。
 
また、天寿酒造雪室解禁パーティー」は毎年恒例となっており(今年は4/29)、地域内外の人々が大勢集う。

真坂和義氏

 「ホテルまさか」の真坂和義さん。「若い頃、長野県の滋賀高原や苗場スキー場などを訪れ、ホテル・レストランの地産地消への取り組みを見て、地元で何ができるかと考えた。今、それがグリーン・ツーリズムとして実を結びつつある」と紹介。山野草・地元の歴史などに詳しく、「鳥海山」という地域の宝を生かした活動は、鳥海ファンを生み出している。

西仙北GT推進協議会&百笑村の紹介

 「西仙北グリーン・ツーリズム推進協議会&百笑村」と題し、秋田大学付属小学校との連携などの事例をもとに、指導員活動報告をする佐々木義実さん。

[

 「高齢化集落の実態とその対策の展開方向」と題し、「秋田はみんな元気ムラ県民運動」について説明する、「活力ある農村集落づくり推進チーム」の千葉俊成主幹

●「ホテルまさか」にて

 ホテルまさかの料理-山菜天麩羅 ホテルまさかの料理-ぜんまいの煮つけ

 ホテルまさかの料理-フキの和え物 ホテルまさかの料理-山ウドサラダ酢味噌がけ

 ホテルまさかの料理-塩高菜おにぎり ホテルまさかの料理-焼魚(イワナ・ヤマメ)

 「湯の沢温泉ホテルまさか」での夕食は、山と川の恵みをふんだんに使った、手作りの郷土食。
 真坂オーナーの長男・憲史さん(写真右)は、十年程松島で料理の修業をしてきたという。彼のアイディアがたっぷり詰まった料理は、昔懐かしい農家の味と、若い感性とが融合した美味しさ。

真坂憲史さん

ホテルまさかの料理-朝食

 ホテルまさかの朝食。

松皮餅

 郷土のお菓子として知られている松皮餅。

ホテルまさかの真坂社長と参加者

 ホテルの真坂オーナーと参加者。

ホテルまさかの雛飾り

 玄関に上がってすぐのホールにある雛飾り。

NPO法人矢島フォーラム太田良行代表

中直根集落コッコファームの真坂好喜代表

 「アケビは捨てるところがない、皮も実も蔓も、種ですら」と、中直根集落コッコファームの真坂好喜代表(写真上)。「アケビの持つ無限の可能性」と題し、地元直根集落でアケビ栽培に夢を懸けて取り組んでいる実情を、後継者不足の問題を絡め事例紹介。

 NPO法人矢島フォーラム太田良行理事長(写真左)は、「くにます・鳥海まりも・由利原高原」それぞれの関係性の中で「自分・地域・観光」について考え、「秋田は民力の腐葉土だ。観光地としての立場を見据えたソフトウェア(地域の魅力)を発信していかねばならないだろう」と語る。

●意見交換―「水土里の語り部交流会」(矢島・日新館にて)

菅原徳蔵氏の挨拶

 秋田県農林水産部農地整備課菅原徳蔵課長による挨拶。

 当協議会のホームページ「美の国秋田・桃源郷をゆく」にも、前農山村振興課課長であった彼の原稿・写真データなどを協力していただいた。

水土里ネット稲川の阿部進氏

 水土里ネット稲川(稲川土地改良区)・阿部進さんは、稲川町三梨の川西集落の与惣右エ門堰の開削を紙芝居にした「よそうえもんぜき」を紹介。紙芝居は30年程前、三梨町の故・藤原貞一郎氏が地元の子どもたちのために描いたもので、堰開発の子孫の麻生雄次氏宅から見つかった。紙芝居は現在、保育園などで披露されている。

あきた民話の会会長・石渡力造氏

 「あきた民話の会」会長・石渡力造氏による昔語り。郷土を愛し、民話を大切にする人々が交流を深め、伝承文化の振興を図り、地域づくりに取り組んでおり、旧東由利町の「東由利昔っを語る会」の会長としても活躍されている。

 

(よどぎみは、昨年夏のいい汗かいたね!2010じゃがいも掘り体験~東由利グリーン・ツーリズム研究会~以来の再会である。)

 

 旧東由利町に住んでいた故・畠山子之吉氏(明治20年~昭和55年)に「三番叟」について尋ねたところ、「…芝居でも狂言でも番楽にしても、勿論昔語りにしても、一番最初にあるのが三番叟だ」と答えたそうだ。

 民話研究家・米屋陽一先生は、「三番叟とは農作物の豊かな稔りを願い、神様が人間に祝福を与えてくれるよう祈る信仰的な行事だった。その名残りが能・狂言・歌舞伎等の舞い。それらに足拍子が多いのも、大地の悪い神を踏み鎮め、幸せを祈る祖先たちの想いが込められているのでは」と補足している。

 「三番叟」は、物語の内容のストーリー性が必ずしも重要だというのではなく(実際、起承転結が必ずしも起こらない)、話そのものが持つ、「けがれを取り除き、清める効果」が大切なのだと伝えている。

 そのせいか「河童火やろう」・「まぬけ息子」それぞれの話にはテンポの良い掛け声や、韻を踏んだような面白さがある。現代生活につながる「教え」が、そこに込められているように感じた。

 

「河童火やろう」…語りの中で婆さまが河童に「火やろ火やろ」と畳みかけるように言う言葉が笛の音に聞こえ、その笛の音と同時に河童の「いいえ、いいえ、いえ」の断りの言葉が舞のかけ声となり、お囃子の雰囲気を醸しているとの一説がある。

有限会社三和代表取締役・三浦幸三氏

 クニマス探しに生涯を捧げた、クニマス漁師の故・三浦久兵衛氏の弟さんである三浦幸三さんは、クニマス漁で栄えた当時の田沢湖町での、クニマスと共にあった豊かな暮らしを語る。

意見交換会

 「水・土・里の魅力。今、語りを通して伝えたいこと」と題し3名の語り部を迎えての意見交換会。ブザーバー:農林水産省農村振興局・齋藤晴美次長、コーディネーター:秋田県立大学・荒樋豊教授。

 ✿ お ま け

真坂ファミリー

 見送ってくださった、真坂ファミリー。

真坂和義氏とよどぎみ

 真坂和義氏とよどぎみ。

参加者集合写真

 冬の鳥海町は雪深いと話には聞いていたけれど、よもや目の前に3mもの雪の壁が立ちはだかっているとは、さすがに予想がつきませんでした。地球にとって必然的なことも、日常生活を送る人間にとっては驚異になることも…長い歴史の中で幾度となく人々は、それら想像をはるかに超える自然の猛威と闘い、そして共存してきました。

 今回の現地研修を通し、各々の地元のリーダーの方々が、ご自分の集落が持つ「自然・人間・文化」の素晴らしさを再認識しているのを感じる中で、「人が出来ることって一つ一つは小さいけれど、団結することによって大きくなる。そんな当たり前のことを、私は忘れてはいなかっただろうか…」と、地域の大切さを考えるきっかけとなりました。

県央地区現地特派員 よどぎみ