~ 草 木 谷 の 恵 み ~

八郎湖の水源地・草木谷―里山保全活動のその後

●昔ながらの脱穀体験(於:潟上市郷土文化保存伝習館前)

 以前こちらのホームページでもお伝えしました、(※)谷津田再生プロジェクト「草木谷を守る―地域住民の里山保全活動~石川理紀之助ゆかりの棚田で稲刈り体験~」の一年を締めくくる脱穀作業が、2010年11月1日、「潟上市郷土文化保存伝習館(石川翁資料館)」前で行われました。

 伝習館には山田集落の地域住民、秋田地域振興局農林部農村整備課の皆さん、八郎湖再生活動を行っているNPOはちろうプロジェクトのメンバーがふたたび集結、それに大久保小学校の5年生も加わり賑やかな脱穀体験となりました。

 

※谷津田再生プロジェクト…荒廃し減反地となった潟上市昭和豊川にある「理紀之助の田んぼ(通称「草木谷」)を、地域の大人や子どもがよみがえらせる取り組み。

 奥にあるのは、大正時代からの年代物の稲扱き脱穀機(=人力足踏式脱穀機)です。

 ペダルを踏み、針金の歯が植えられた扱き胴を回転させ、稲束を穂先を回転する胴に押し当てると、逆U字型の扱き歯(針金)がモミを弾き飛ばすことで扱かれるというもの。
 国立科学博物館や歴史博物館等に飾られているようなものが、農作業体験では現役で活躍。

 「うーん。こわい!」「根元どごしっかり押さへで入れてやらねば、連れてかれる(引っ張られる)や。コツは、電動鉛筆削り機のように少しずつ回しながら削っていくようにしてぐことだ」と、石川久哲さんが手ほどき。

 昔の子どもは、小さい頃から家の手伝いをすることで、物事の危険性や安全性、生活の仕方を覚え習得していったのです。

 とはいえ現在は一連の作業を機械で行っています。昔の足踏み式脱穀機は、農家の方々にとっても、農作業体験のみで復活する、「ある意味新鮮な作業」なのだそうです。

 3人の連携で手際良く脱穀していきます。これも、昔ながらの熟練の技というもの?

 (写真左より)大木次彦さん、石井斉さん、石川久哲さん。

 脱穀後、唐箕(とうみ)という機械で米粒とその他を選別します。

 ハンドルを回し風を起こすと重たい物が残り、軽い物は飛ぶという仕組みで、品質の良い米粒(重い)は手前の一番口から、未熟な米粒(軽い)は二番口から、藁やゴミは大口からと、それぞれの口から出てきます。

 噴出した籾殻に、「あーっ」「うぉーっ」、「面白い」のどよめきが。

 あんまり近づくと、目に入っちゃうよ!

 「おもへってが?おらの時だばやった(嫌だった)もんだけどな」

 イマドキの子どもたちにとっては、新鮮に映っことでしょう。

 へっぴり腰で脱穀するよどぎみを、不安そうに見つめる久哲さん。「おれが足で踏んでけるがら、束しっかり持っでれな(苦笑)」「は、はい!持ってかれないよう気を付けます…」

 今回の脱穀作業で、ひときわ輝いていた石井斉さん。子どもたちに対してはニコニコとしながらも、手慣れた手つきで黙々と仕事をこなす、“日本のお父さん”です。

●田んぼの学校大収穫祭(於:大久保小学校体育館)

 稲刈り体験した人たち、関係者面々が収穫を共に祝う「田んぼの学校大収穫祭」が、2010年11月23日、潟上市昭和大久保小学校の体育館で開かれました。

 「草木谷を守る会」が主催する農作業体験の一環の締めを飾る行事で、同市や秋田市、潟上市などの親子が参加。自分たちで収穫したもち米を蒸し、きねと臼でついたもちを雑煮などにして味わいました。

 餅つきでは、この一年の農作業体験をした大久保小の5年生が、初めて持つ杵の重さをもろともせず、山田集落のお父さん達の助けを借りながら力いっぱい杵を振り下ろし、力強さを見せていました。

 また、つきあがった餅は全員に振る舞われ、皆さん満足そうな表情をしながら餅を頬張り、収穫の喜びを祝い合っていました。

 小学生の父兄と山田集落のお母さん方らが協力し、つきあがった餅をゴマ餅などに調理。

 特に、準備段階から山田集落のお母さんたちが一生懸命でした!

(写真上)右から時計回りに、ゴマ餅、餡餅、きなこ餅。つきたてはホカホカ、トロッとしてとろける食感!

(写真左)人数分よりも多く用意されました。おかわりをする人や、持ち帰りもOK。

 民謡歌手の藤原美幸さんら御一行も、収穫祭に華を添えました。子どもたちは間近で聞こうと、にじり寄っています。

 こちらの三味線も大人気。

 「触らして!」(おそらく)はじめて見る三味線に、興味津津。

 そうして、子どもたちの要望により、尺八体験教室となりました(笑)

 子どもたちによる、草木谷での「環境の学習」の成果報告も、ちゃんとありましたよ。

●固い握手を交わす、体験者側と受け入れ者側の面々

「地域で収穫したものを共に祝うというシンプルなことを忘れなければ、つないでいける」

 この一年、草木谷で農作業を共に協力し合った人びと(体験者である大久保小5年生・受け入れ側である山田集落の人々等)がお互いのがんばりをねぎらい、記念に固い握手を交わしました。

 まるで親戚のような付き合いで心の結びつきを強くした農業体験。子どもたちにとっても地域の方々にとっても、忘れられない行事となりました。

●草木谷からの恵み~純米酒「草木谷のしぶき」完成!~ 

  以前も「草木谷を守る―地域住民の里山保全活動~石川理紀之助ゆかりの棚田で稲刈り体験~」でお伝え致しましたとおり、10月11日に収穫された酒米(秋田酒こまち)を使った純米吟醸酒「草木谷のしぶき」が、このほど五城目町にある福禄寿酒造株式会社にて完成しました!

 (写真左より)山田集落の石川紀行さん、石川忠さん、伊藤眞紀子さん、福禄寿工場長の伊藤美佐男さん

 創業元禄元年、初代彦兵衛が酒造りを始めたという「福禄寿」。江戸期の風格が今なお残る土蔵造り(上酒蔵・下酒蔵)は、全国登録有形文化財ともなっています。

 蔵内を案内してくださった美佐男工場長は、以前杜氏だったそうです。「今は若い人達が先に立ってやってくれていますから」と笑顔。心強いですね。

 草木谷で収穫した酒米を使用し、福禄寿酒造で純米吟醸酒を作る取り組みからはや二年。「今年でまだ2年目ですので、今後に期待ですね」と渡邉康衛社長(写真中央)。

 美佐男さんとよどぎみが立っている奥が「草木谷のしぶき」がある吟醸蔵。今回は山田集落の皆さんが一本持ち帰り、昨年との出来栄えの違いを飲み比べるそうです。

 福禄寿の蔵で醸されている酒の仕込み水は、初代当時より全国的にも珍しい半硬水。御不動尊より湧き出で大地に濾過され、地下水となった清らかな水は、ミネラル分を多く含んでおり舌触りが爽やかなのだそうです。

 ただ今次なるお酒用の洗米段階。

 取材時の気温はマイナス4℃以下、蔵内の冷蔵庫(3℃)よりも寒い中での作業です!

 そんな凍てつくような寒さの中でも、美味しいお酒を作るために皆さん真剣な表情です。

(写真上)「草木谷のしぶき」は昨年同様「ブルーメッセ昭和」にて販売予定(写真は昨年のものです)。

 

(写真右)七草前日、厳寒の山田集落。

 草木谷のコメで餅つきが行われ、収穫祭、草木谷のコメで純米吟醸酒・・・その活動は山田集落のみならず、潟上市から五城目町までと市町村を隔てることなく広がりつつあります。

 “農業体験をすること”が、直接グリーン・ツーリズムではないかも知れませんが、同じフィールドで共に働き、収穫の喜びを知ることが、今後の交流につながっていくと思います。

 決して一過性のもので終わらせず、今後に引き継いでいくためには、何が必要なんだろう。次世代の“秋田の食”を担っていく責任があるわたしたちに出来ることとは、いったい何だろう―その土地に住まう人々の生活と想いを知り・考えるきっかけとなった、良い勉強の場となりました

 石川紀行様をはじめ、山田集落のお父さん・お母さん方には大変お世話になりました。

 また、しばらく会えないなぁ、としょんぼりしていると、「来たくなったら、いつでもおいで。お茶飲みでもいいから。」とありがたいお言葉をかけていただきました。

 たぶん、この感覚なんだなぁ。気負うことなく「また来よう」と自然に思う。

 山田集落に住む人々の現場サイドでの「地元の農業を推進したい」という真摯な想い、「次世代につなげていきたい」という切なる願い・・・それらをひしひしと背中に感じ、山田集落を後にした県央地区現地特派員よどぎみでした。