白神山地T 白神山地U

▲向白神岳稜線と新緑の樹海を望む

 白神山地は、秋田県と青森県の県境に位置し、白神岳(1,232m)、向白神岳(1,243m)、真瀬岳(988m)、二ツ森(1,086m)、藤里駒ケ岳(1,158m)、小岳(1,042m)、青鹿岳(1,000m)、天狗岳(958m)といった標高千メートル級の山々が連なる山塊である。

 この白神山地を源流とする川は、赤石川、追良瀬川、粕毛川、大川、暗門川、津梅川、真瀬川、水沢川などブナ原生林の豊かな恵みを受けた動植物、渓流魚の宝庫として知られている。そこは、本格的な開発を受けることなく、マタギや少数の沢登り愛好家たちが入山する「秘境」の面影を残した広大な山域である。そこには、道などなく、地元の人ですら入り込めない「聖域」が、どこまでも広がっている。

 ブナと野性動物の楽園・白神は、豊かな山の幸をもたらし、白神に生きる人々の暮らしと文化を育んできた。日本海側沿いの峰浜村から能代市にかけて、たくさんの縄文遺跡が発掘されている。古くから、水かかりのよい谷あいに水田を開き、農耕を営みながら、海の幸はもちろん、森の王者・熊をはじめ山菜、きのこ、川魚など、ブナの森の恵みを享受。人は、それを「ブナ帯文化」と呼んでいる。

 古代より恵みをもたらし続けてきた白神の森は、「縄文の森」と呼ぶにふさわしい。こうした世界最大級のブナ原生林が高く評価され、秋田県と青森県に広がるブナ原生林、約17、000haが、平成5年(1993年)12月、屋久島とともに世界自然遺産に登録された。

▲二ツ森(1,086m)から、秋田県側粕毛川源流部を望む

 二ツ森山頂は、秋田・青森に広がる世界自然遺産地域を360度俯瞰できる絶好の場所というだけでなく、青秋林道終点からわずか40分程度で登れる。老若男女誰でも登れる初心者コース。写真の左奥に聳える山が、能代山本地域で最高峰の藤里駒ケ岳(1,157m)である。
▲ブナの根回り穴と萌黄色の新緑
 雪解けは、ブナの根回り穴から森全体へと広がっていく。萌黄色に染まるブナの新緑は、目にも心にも染み渡るほど美わしい。
▲岳岱自然観察教育林(藤里町) ▲白神のシンボル、通称400年ブナ。

 岳岱自然観察教育林は、県道西目屋二ツ井線から黒石林道分岐点より約6.6km。ブナ林の広さは約12haで、気軽に白神山地・ブナ原生林の素晴らしさを体感できる。
▲世界自然遺産核心部のブナ原生林
 白神山地のブナは、日本海から吹き付ける風雪が強く、樹齢200〜300年程度のサイクルで世代交代を繰り返してきた。ブナは、北の森の象徴とも呼ばれ、狩猟採集時代は、この森の恵みを受けて縄文文化が花開いた。
▲新緑の輝き
 新緑の季節は、白神の森が最も美しく輝くときである。透き通るような若葉の淡い緑は、またたくまに濃い緑に変化し、白い樹肌とのコントラストを際立たせる。ブナの森は、いつ見ても美しい。
▲新緑の芽吹き ▲滴る新緑の美
▲残雪の谷とブナの新緑 ▲残雪の谷にエサを求めて彷徨うカモシカ
▲萌黄色の森を俯瞰する
 ブナの森は、残雪の山肌一面を若葉と花芽で萌黄色に染め上げてゆく。ブナの新緑美のピークは、この柔らかい芽吹きの淡色の頃である。
▲源流の一滴(峰浜村水沢川源流)
 白神の水は、ミネラルを多く含み、下流の水田を潤し、山の幸、海の幸を育ててきた。
▲世界自然遺産核心部・粕毛川源流(現在、入山禁止)・・・穏やかな流れと豊かな渓畔林が生き物の多様性を育む ▲粕毛川源流三蓋(さんがい)沢・三蓋滝二段20m(現在、入山禁止)・・・三蓋滝は、両岸、屹立する岸壁の真ん中を二段となって豪快に落下している。
▲真瀬川三ノ又沢ヨドメの滝・多段40m(八峰町)・・・三ノ又沢源流二股を左に曲がると、まもなくヨドメの滝・大滝だ。春は、滝の手前がいつも巨大なスノーブリッジに覆われている。大滝は、一見4段の滝に見えるが、その上にも滝は連続し、総落差は40m以上に及ぶ。 ▲カンカケ湧水流(岩崎村)
 津梅川上流小又沢の奥・カンカケ沢の湧水。屹立する斜面から音をたてて湧き出している。湧水としては他に例がないほど水量が多い。分厚い苔と清冽な湧水が殊の外麗しい。
▲秘境の滝・白滝100m(追良瀬川源流部)
 白滝は、白神山地の核心部を流れる追良瀬川の最源流に懸かる滝で、白い神々が棲む白神山地を代表する名瀑である。日暮らし眺めていても飽きないことから、別名「日暮らしの滝」とも呼ばれている。
▲アイコガの滝3段15m(滝川)
 写真は上段7m直滝。下の中段ナメ滝6m、下段2m・・・合計落差は約15m。「アイコガ」とは、滝壷を藍色の「アイ」と酒屋桶の「コガ」に例えた言葉で、底が見えないほど藍色の水を満々とたたえ、岩盤を抉り取ったコガのような滝壷を意味している。
▲滝川源流最大の滝、二段40m・・・滝川源流に懸かる最大の滝。かつてアイコガの滝が魚止めの滝であったが、今では、この滝まで岩魚の魚影を見ることができる。 ▲滝川支流に懸かる天空滝30m・・・天空からジャンプした流れがー気に地上へと落下することから、「天空滝」と命名。ブナの深緑と青空、屹立する黒壁、白い飛瀑にときおり虹橋がかかると、それは、それは美しい。
▲五郎三郎の滝25m(追良瀬川中流部)・・・五郎三郎の沢は、「隠れマタギ」の岩小屋や赤石川と追良瀬川をつなぐ歴史と文化に満ちた杣道である。藩政時代、阿仁の旅マタギ(出稼ぎマタギ)は、こんな奥地まで密かに隠れて猟をしていたという。 ▲マス止めの滝(マス止めの淵、追良瀬川)・・・サカサ沢・ツツミ沢合流点からすぐ下流に落差2mほどの大きな淵がある。かつては、河口からここまでサクラマスが大量に遡上したという。美味な魚だけに岩崎村の人たちは、小又沢を登り詰め、ツツミ沢を下って、このマス止めの淵で大量のサクラマスを捕った。その道を「マス道」と呼ぶ。
▲赤石川・ヨドメの滝(落差約20m)・・・ヨドメとは「魚止め」を意味する言葉で、この滝の上流には岩魚が生息していなかった。かつて、砂子瀬の工藤兄弟3人のマタギは、この滝壺で釣った十数尾の尺岩魚を竹カゴに入れ、滝の左をロープで吊り上げて滝上に放流したと記録されている。 ▲追良瀬川源流最奥の滝・黒滝・・・上段白滝の絶景を見てから、黒滝沢を約700mほど遡行すれば黒滝に達する。新緑の季節は、いつも下段の滝が雪崩で埋まり、全貌を見ることができない。この滝の右岸には、高巻きルートの踏跡がある。この踏み跡は、津梅川支流小又沢へ抜けるルート通称「マス道」である。
▲天然階段落差工(泊り沢)・・・人工的な温水落差工かと見紛うほど、不思議な魅力を秘めた天然の小滝。 ▲「人」文字のナメ滝(泊り沢)・・・泊り沢源流に懸かる滝で、「人」の文字を描く滝は極めて珍しい。
▲ブナの黄葉 ▲岳岱風景林の黄葉
▲錦秋の渓谷
 紅葉は、峰から沢へと駆け下りることから「峰走り」とも呼ばれている。黄色と紅の競演、秋は色の魔術師とも言われ、古来から多くの人々に感動を与えてきた。
▲秋、白神の源流
 イワナの産卵の季節がやってきた。落ち葉の下にペアのイワナが潜み、産卵が始まる。やがて長い冬がやってくると、サルたちは、ヒバの根元で肌を寄せ合い寒さと飢えをしのぎ、草木が芽吹く春をじっと待つ。
 左の写真は、早春、ブナの新芽を貪り続ける白神のサル。その姿は、冬の寒さと飢えに耐え、待ちに待った春を喜ぶ感動的シーンでもある。森のレストランは、海岸沿いの里山から奥山へと移動し、四季折々、多種多彩な恵みを与えてくれる。

 右の写真は、厳寒の白神を縦横無人に歩くカモシカ。他に森の王者・ツキノワグマの生息密度も、ダントツ高い。もちろん、天然記念物のクマゲラだって生息している。まさに、白神は野性動物の楽園である。
 白神山地の日本海側に注ぐ河川には、毎年大量のサケが遡上する。このサケは、清流・水沢川に遡上してきたもの。左の写真はペア、右の写真は、産卵でメスを奪い合うオスたち。春には、天然のアユも遡上する豊かな川である。

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