神の山・鳥海山(2236m)は、山麓に住む人々に命の水と山の幸をもたらし、荘厳な山容は、神の鎮まる山として信じ仰がれ、度重なる噴火は畏怖と畏敬の念となって、遥か昔から崇められてきた。山麓一帯では、至る所に美しき水が伏流水となって湧き出し、山岳信仰の流れをくむ共通の番楽や獅子舞が数多く伝承されている。その「美しき水と文化の郷」を歩くモデルコースを紹介する。
観光+グリーン・ツーリズムモデルコース(車+徒歩)

 元滝伏流水金峰神社(延年チョウクライロ舞:6月15日)国指定名勝・奈曽の白滝疏水100選:小滝温水路横岡集落散策・横岡番楽(川袋川のサケ:10月)鳥海山麓の田園と九十九島、蚶満寺道の駅「ねむの丘」ガーデンカフェ タイム金浦山神社(掛魚まつり)農家・漁家レストラン 和み庵・京かのこ直売所「百彩館」

(コース概念図はカシミール3Dで作成)
▲元滝伏流水(にかほ市象潟、元滝川)
 約800年前の鳥海山の根雪が地中に染み込み、苔に覆われた岩の間から伏流水となって湧き出す珍しい景観は、「美しき水の郷」を象徴する風景で、「平成の名水百選」(環境省)に選ばれている。伏流水の幅は約30m、高さ5mほど。

▽アクセス
 鳥海ブルーライン(131号線)を山頂方向に進み、象潟病院の案内看板を右折し、100mほど進んでから左折し、病院前を通り過ぎたら、そのまま進むと駐車場がある。下りの遊歩道を歩いて5分ほどで元滝伏流水の前に出る。
金峰神社(延年チョウクライロ舞:6月15日)、奈曽の白滝
▲金峰神社とその向かいにある奈曽の白滝へ至る参道。 ▲小滝・金峰神社
 小滝・金峰神社は、鳥海山をご神体とする修験の拠点の一つで、奈曽の白滝が神と下界との境界線と言われている。この神社の例祭(6月15日)に奉納される延年チョウクライロ舞は、延命長寿を願う国重要無形民俗文化財。

▽小滝集落と修験
 小滝村は、鳥海山小滝口の修験信仰の基地で、典型的な坊中村落であった。坊中村落とは、修験者が集団で居住し、各地から来る信者たちを世話し、山がけの手助けをする宿坊を中心として発達した村のこと。
▲五穀豊穣を願う「九舎の舞」 ▲子どもが舞い手となる「小児の舞」は、長男でかつ小学生に限られる
 延年チョウクライロ舞は、1200年の伝統をもち、県内でも珍しい延命長寿の舞いである。舞の起源は、天安元年(859年)までさかのぼる。当時、鳥海山に住んでいた悪魔を、慈覚大師が法力で退治。その時、神恩に感謝する御祭りで舞ったのがチョウクライロ舞と言われている。

▽鳥海山の名の由来説
 延年チョウクライロ舞の「チョウクライロ」が「チョウカイ」に訛ったとする説がある。
▽奈曽の白滝
 鳥海山から流れ出る水が高さ26m、幅11mの大きな滝となって流れ落ちている。
 「暑さとは、どこの事か奈曽の白滝」・・・昭和7年、国の名勝に指定。

▽滝は他界への入口・異界
 岩肌が斧で切り裂かれたような地形、吹き出すような勢いで落下する奈曽の白滝・・・修験道では、滝は他界への入口の一つで、神々の出入りする場所として神聖視された。

 一般に、滝壷は、昔から竜神が住むとか、雨乞いの場所、あるいは美女が身投げした伝説など、昔から異界と信じられていた。その滝に打たれる滝行は、神々との交流であり、その力をもらって不屈の行者に生まれかわる修行の一つ。
疏水百選、土木遺産:小滝温水路
▲小滝温水路
 白雪川水系は鳥海山の融雪水と湧水に涵養され、夏でも摂氏10度前後の冷水を入れざるを得ず、冷水害は、最大のガンとして、古来その対策に腐心してきた。1927年(昭和2年)、長岡部落・佐々木順次郎が考案した温水路は、古来より悩まされ続けてきた冷水害を見事に克服した日本初の温水路である。
 水路の幅を広く、水の深さを浅く、流れをゆるやかにし、多くの落差工を設けている。ゆっくり流れる温水路は、太陽熱を吸収させ、水温が上昇する。

 温水路を流れる水は、清流そのもの。幾つもの落差工を流れ下る瀑布は、適度なマイナスイオンを放ち、一際清涼感を誘う。その連続する小滝の水路群は、親水空間としても一級品である。(延長約2km、落差工の数73)
▲小滝温水路位置図
 奈曽の白滝がある小滝集落から上郷小学校前を通り湯ノ台集落へ。湯ノ台集落の十字路を右折すると、小滝温水路のビューポイントがある。
横岡集落散策・鳥海山日立舞横岡番楽
▲古い歴史をもつ横岡集落
 横岡集落の歴史は古く、西暦77年の記録もあるという。瓦屋根と蔵、庭園、巨木など、隠れた資源が多い。ゆっくり散策することをオススメしたい。
▲鳥海山の恵み・・・鳥海山麓から湧き出す美しき水が集落内を流れる光景は、心が潤う。
▲美しき庭園 ▲横岡分校跡
▲横岡神明社と番楽師匠の碑
▲鳥海山日立舞横岡番楽(昭和39年、県指定無形民俗文化財)
 生駒氏が讃岐から転封の際、随行の楽師が伝えたとされている。日立とは鳥海山の炎が信仰に結びついたものといわれ、舞は熊野神社に豊作祈願と感謝の行事として、お盆に奉納されてきた。7月1日が神降ろしで、8月の13、15日に演じられ、9月1日の神送りが舞い納め。
▲横岡棚田 ▲横岡サエの神(上郷の小正月行事は国重要無形民俗文化財)

鳥海山の伏流水の恵み、川袋川のサケ:10月~11月
 川袋川は、河口でも3m足らずの小河川だが、県内12河川で捕獲される総捕獲数の約半数を占める。サケを捕獲するヤナ場は、河口から約300mと近く、最盛期には川が黒い漁体で埋め尽くされる光景は圧巻。遡上の最盛期は、10月下旬から11月上旬。

 10月~11月は、小学生の総合学習や中学生の「1日鮭作業体験」が人気。ふるさとへ回帰するサケの大群を観察するには最適のスポットである。
文化的景観:鳥海山麓の田園と九十九島
 九十九島周辺の水田に美しき水が張られ、その水面に浮かぶ鳥海山と黒松の春の姿はかつて入り江だった昔の姿を再現しているように美しい。60あまりの島々が田園地帯に浮かぶ特異な景観には、近世農民の歴史が刻まれている。蚶満寺第二十四世の覚林が守ろうとした景観は、今なお保全され、人の手が加わった文化的景観の代表格である。

▽島々をつぶす新田開発から景観を守った物語・・・「
名勝景観を守る・覚林」を参照
▲蚶満寺 ▲松尾芭蕉像
 かつて象潟は多くの入江に島を浮かべ、秀麗な鳥海山を水面に映す絶景の地であった。松島と並び俳人松尾芭蕉がめざした景勝の地であった。「松島は笑うが如く、象潟はうらむがごとし・・・象潟や雨に西施(せいし)がねむの花」と「奥の細道」に記している。
▲漁港から鳥海山を望む ▲象潟のカキまつり(7月最終土曜日)
 一般にカキと言えば、冬の食べ物の印象が強いが、秋田では夏の食べ物・・・なかでも象潟の岩カキは有名。その理由は、鳥海山の伏流水が沖合いに湧き出していることから、この地域一帯の岩カキは、ミネラルを多く含んだ伏流水とプランクトンで育った岩牡蠣で極上品にランクされている。
▲道の駅象潟「ねむの丘」の鮮魚店で取れたてのものを食べることができる。また、その場でお土産や贈答に全国発送することも可能。7月下旬のカキまつりでは、格安即売会もある。
▲伏流水が流れる水路、水温は年間12度C前後(象潟小砂川)と冷たい。 ▲みたらせ清水(象潟小砂川)・・・かつては飲み水、現在は野菜の洗物などに利用されている。

ガーデンカフェ タイム(にかほ市大竹字前谷地)
▲千年の村・大竹集落のガーデンカフェ「タイム」

 薪ストーブがあるログハウス、小高い裏山一面に広がるお花畑、ハーブ畑は、多い時で約300種以上の花が咲き誇る。平成19年、NHKBSで「素敵にガーデニングライフ」で庭が紹介された本格派。

 ハウス内は、手作りのリースやドライフラワーなどの作品がズラリ。グリーン・ツーリズムならではの喫茶&食事(予約制、ケーキセット付2000円)を楽しむことができる。ガーデニング、フラワーアレンジ、リース、ハーブ石鹸等の体験もできる。

電話&FAX 0184-38-3537
定休日 水・木曜日
営業時間 10:00~16:30

金浦山神社(掛魚まつり、2月4日)
 2月4日立春の日、金浦山神社の社頭で行われる「掛魚(かけよ)」は、「タラまつり」「掛魚まつり」と呼ばれる奇祭の一つ。350年ほど前、越後の人によってタラ漁法が伝えられ、以来、「金浦のタラ」は冬の味覚の代表となった。
 タラ漁の最盛期は、大シケが続く1月~2月。江戸時代の1738年2月17日、86名もの海死者が出て、村に大人の男がいなくなったと伝えられている。漁師たちは、漁獲の一部を守護神に奉納し、感謝と海の安全、大漁を祈願する風習が自然発生的に行われるようになったと言われている。
農家・漁家レストラン 和み庵・京かのこ
 日本庭園と茶室が癒しの和の空間を演出する農家・漁家レストラン。「茶道、華道を教えていた伯母がこだわった茶室の家を守りたい」と、レストランをオープン。お茶室は大小4つ。ご主人が漁師で、姉妹は無農薬野菜を作り、料理は全てオリジナル料理。
 右の写真は、京懐石風のお膳(おまかせランチ)・・・刺身(あおこ・平目・鯵)・だまこ鍋・アスパラの鮭巻き揚げ・ハラコ飯・稲庭うどんのサラダ・茶碗蒸し・えご風ワカメ・ごま豆腐・もって菊とナメコのみぞれ和え・がっこの10品目で1,500円と格安!

電話・FAX 0184-38-3096

営業日 木・金・土(完全予約制。他の曜日は要相談)

営業時間 ランチタイム 11時~14時
        ディナータイム 18時~21時

・おまかせランチ 1500円
・おまかせランチ・3種類 1000円~
・おまかせディナー 3000円~
伝統野菜カナカブと直売所「百彩館」
▲独特の辛味が郷愁を誘う幻の伝統野菜「カナカブ」
 長さ10~15cmの細長い大根のミニチュアのようなカブ。上の写真は、大竹集落の焼畑農法によるカナカブの収穫の様子。8月上旬~中旬に火入れと播種、10月~11月に収穫の最盛期を迎える。
▲直売所「百彩館」で統一ブランド「カナカブ漬」が販売されている
 数百年にわたり伝承されてきた「カナカブ漬」は、歯ごたえの良い食感と独特の辛味があり、主に甘酢漬けが販売されている。

「カナカブ漬」200g、250円~300円(販売期間は、10月初旬~2月末)
参考:鳥海山修験と番楽

▲屋敷番楽「志賀団七」(由利本荘市西沢、屋敷番楽保存会)
▲本海番楽「祓い獅子」(由利本荘市鳥海町、本海番楽・二階講中) ▲坂ノ下番楽「空臼からみ」(由利本荘市矢島町、坂ノ下番楽講中)
 番楽は、山伏神楽や能舞、獅子舞などとも呼ばれ、修験者の奉じた神楽である。1600年代、京都の修験者・本海行人が鳥海・矢島地域に居住し、本海番楽(獅子舞)を鳥海山麓一帯に広めたと言われている。

 県内の番楽の分布は、鳥海山麓地域が圧倒的に多い。これは、鳥海山の修験と番楽は、密接な関係にあったことが伺える。県無形民俗文化財に指定されている鳥海山麓地域の番楽は、本海番楽、鳥海山日立舞、冬師番楽、延年チョウクライロ舞、坂ノ下番楽、屋敷番楽、伊勢居地番楽、釜ケ台番楽、鳥海山小滝番楽の9件。また、同じ流れをくむ仙道番楽を加えると10件にも及ぶ。

 さらに番楽以外では、猿倉人形芝居、上郷のサエの神行事、赤田大仏祭り、木境大物忌神社の虫除け祭り、七高神社の正月年占行事を加えると、15件に及ぶ(県指定47件のうち3割余を占める)。鳥海山麓地域は、「民俗文化の宝庫」といえる。

 ちなみに県内では、国重要無形民俗文化財の指定は15件で全国トップ。うち、鳥海山麓地域は2件(延年チョウクライロ舞、上郷のサエの神行事)が指定されている。民俗文化を探る旅をしたい方は、秋田が断然オススメ!