水と緑の風景その1    水と緑の風景その2


初夏~冬:深緑、水の神、セミ、カジカガエル、イワナ、サンショウウオ、カジカ、ヤマメ、水生昆虫、
赤とんぼ、マムシ、ヤマカガシ、クワガタムシ、サケ、渓谷と森林美、木の実、山の神・田の神、黄葉
▲新緑から深緑へ(左:白子森、右:白神山地)
 初夏になると、沢をすっぽり包み込むように深い緑のトンネルに包まれる。森の頭上からエゾハルゼミの鳴き声がコエゾゼミに代わると、やがて盛夏を迎え、森はまさに波打つ深緑の樹海となる。この時期、ブナの巨人は、「母なる木」にふさわしい慈愛に満ちてくる。
▲苔のある風景(小阿仁川水系、上小阿仁村)
 森の暗い林床や清冽な流れ、滝まわり、樹齢を重ねた巨木に着生した苔の緑は、清楚で美しい。苔のある風景は、古くから古色、永劫、森厳、静寂、隠逸、孤独といった情緒を象徴するものとされ、日本人の「わび」「さび」の思想や禅の心と深くかかわってきた。
▽苔と棲み分け
 苔は、なぜ岩や木の幹、風倒木などに生えるのだろうか。苔は体が小さく、シダ類や種子植物との生存競争に勝つことは難しい。そこでほかの陸上植物が生育していない場所、つまり岩や巨木の幹、風倒木など利用できそうなあらゆる場所を利用しているのである。こうした苔の生態を考えると、無用な競争を避けて「棲み分け」しているとも言えるだろう。
▲玉川水系大深沢の滝(仙北市田沢湖町)
▲マンダノ沢蛇体淵(和賀山塊、仙北市角館町)
▲八龍沢の滝(和賀山塊、仙北市角館町) ▲小阿仁川水系の滝(上小阿仁村)
▽水の神・・・龍神様
 昔から滝壺には、水の神の象徴である龍神が住むと信じられてきた。水神は、飲料水、かんがい用水などをつかさどる神のこと。水は生活に欠くことのできない命の源であり、特に農村では水田稲作のために水神に対する信仰が深かった。

 水神は水のある場所によって、川の神、泉の神、滝の神、池の神、井戸神などの名で信仰されてきた。民間伝承では、水神を龍とする例が多い。
▲水の神様
 水のもち(ワラで編む)とお神酒を一緒にお供えし、田畑に必要な水が充分確保できるように祈願した。また、虫(ハチ、アブ)に刺されないように、もちを口でかんで顔や首につけた。6月1~2日は農作業は休み。田植え前の休養をとり、農繁期に備える(羽後町田代蒐沢 村上靖一)
▲山里の夏(羽後町田代蒐沢)
 「梅、桜、ツツジ、アヤメ・・・花々の季節が疾風のように過ぎると、新緑のグランデーションに溢れた景観に変貌していく。たっぷりと水を湛えた田の幼い稲は、軽い風にすらそよいでみせる。やがて、じっとりとした雨模様はアジサイの花に濃密な色どりを加えていく。稲の丈が伸び青田となって、除草作業の手は休まることがない・・・」(「勝平得之作品集 版画[秋田の四季]より」)
▲エゾハルゼミ
 深い森の頭上から「ジャーー、ジャーー」と、エゾハルゼミの大合唱が聞こえてくる。雨の音なのか、沢の音なのか、区別がつかないほど、多数の個体が連続して鳴き続ける。秋田では、春から初夏にかけて、ブナ林から聞こえてくるセミは、エゾハルゼミである。透明な羽、胸部に緑と黒の紋様がある。ブナ、カエデなどの広葉樹林を好む。朝から夕方まで、日照に関係なく鳴く。
▲タニウツギ(関東沢、仙北市田沢湖町)
▲タニウツギ(生保内川、仙北市田沢湖町)
 タニウツギは、里山や林道沿い、谷筋でよく見掛ける木の花の代表。この花は、雪の多い日本海側に限って分布する。一際色鮮やかに咲いているので、深緑に良く映える。スイカズラ科の落葉低木で、花の形は漏斗型の淡紅色の美しい花をたくさんつける。昔、飢饉の時にはこの若葉を食用にしたという。仙北地方では、この花を家の中に入れると、火災が発生するなどと言って忌み嫌われた。
▲フジの花
 美しいフジの花房が垂れ下がっているのを見ると、野山の花たちも咲き競う頃だと実感させられる。日本人の好きな花の一つ。ほかの木に左巻きに巻き上がって伸びる。
 ビールのジョッキに八分咲きのフジの花を一房入れ、苦みの濃い地ビールを注ぐと、花の甘い香りと微かな糖分が溶けて美味しい。他に天ぷら。
▲アズキナシ
 枝先に5弁の白花を咲かせる。果実がアズキのように小さいことから「小豆梨」。
▲ヤマアジサイ
 葉は長楕円形でも葉の先が尾状に尖る。エゾアジサイよりも小振りな印象を受ける。葉の縁に鋭い鋸歯があるのが特徴。白から淡い青色の装飾花が美しい。
▲エゾアジサイ
 山地の谷沿いなど薄暗く湿った場所に多い。装飾花は大きく、淡青色から淡青紫、赤系と美しく変身する。
▲サラサドウダン
 赤い風鈴のような花を5~15個吊り下げて咲かせる。別名「フウリンツツジ」とも言う。
▲光のシャワー
▲カジカガエル
 張りついている岩と全く同じ保護色をしている。カメラを近づけても微動だにしない。恐らく、これで隠れたつもりなのだろう。初夏の渓でカジカガエルの美声を聞けば心が和む。比較的川幅が広く開けた渓に棲み、渓流脇の草地や樹上にいる。
▲苔蒸す太古の流れ(和賀山塊マンダノ沢、仙北市)

 「谷を歩いていつも驚嘆するのは水の力のすばらしさだ。・・・柔軟な水が小さな転石に阻まれ、その周りを遠慮がちに滑っていくような水の流れが、やがて奔放、疾走、浸透する処、巨大な岩石を押し流し、ついには絶大な天斧となって堅岩を削り、深谷を刻む。

 その雄大な彫塑の痕を見て歩く、私たち谷を行く者は、高大な自然の成せる画廊に、幾百世紀を丹念に刻んだ超人の傑作を鑑賞しながら行くのだから、その楽しみはユニークである。」(「渓」中公文庫、冠松次郎著)
▲聖なる滝の洗礼(粒様沢、北秋田市森吉町)
 水は、生命の源であると同時に、心の汚れを払う沐浴のような効果がある。神輿の滝浴びや水垢離、滝修行、アジア各国で見られる沐浴などは、川で体を清める代表である。日常の世界から離れて、聖なるスロー風土の世界に分け入ると、汚れのない清冽な水に溢れている。
▲深山幽谷に棲むイワナ(岩魚)
 「谷の精」とか「渓流の王者」「幻の怪魚」といった様々な形容詞で飾られることが多く、また伝説がよく似合う淡水魚でもある。天然イワナが生息する条件は、水温15度以下と冷たく、年間を通して水量が安定していること。夏の渇水で水が枯れるような沢には生息しない。

 餌は、トビゲラ、カワゲラなどの水生昆虫や陸生昆虫、さらにはサンショウウオ、カエル、ネズミなどを食べる。中には、胃袋から蛇が出てきた例も少なくない。
▲ハコネサンショウウオ ▲カジカ
▽ハコネサンショウウオ・・・他のサンショウウオと比べて尾が圧倒的に長いこと。全長の半分よりかなり長い。大型で体が細長く、体色は暗い赤褐色で、背面中央部には黄褐色の帯状斑紋が連なっている。おおよそ標高500m以上の源流に生息している。日中は、森の岩や倒木の下、樹洞内に潜伏しているが、夜間や雨天時には行動して昆虫やミミズなどの小動物を食べる。

▽カジカ・・・川の中流から上流域に生息、清流で石の多い瀬を好む。水生昆虫などの小動物、小魚などを食べる動物食性。産卵期は3~6月。かつて山村では、カンテラを提げて夜の川を歩きカジカを突く遊びは、初夏の風物詩だった。
▲ヤマメ
 サクラマスとヤマメは、同じ種だが、河川に残ったものがヤマメ、海に降りたものをサクラマスと呼ぶ。これは降海するイワナをアメマス、河川陸封型をイワナあるいはエゾイワナと呼ぶ習わしに似ている。サクラマスの遡上は4~6月、融雪や梅雨の増水を機に開始され、産卵期の9月下旬まで河川で過ごす。稀に、秋に遡上し産卵するものもいる。

 海へ下る個体は、銀毛化(スモルト)することによって、パーマークが消え、大高が低く、背びれと尾びれが黒くなるなどの形態的変異が起きる。一般にメスが多く、成熟の早いオスは銀毛化しない個体が多い。つまり、河川残留型のヤマメは、圧倒的にオスが多い。
▲豊かな渓畦林と命の循環
 渓流の湿った斜面には、ブナだけでなく、チシマザサ、サワグルミ、オオバクロモジ、オオカメノキ、カツラ、ホオノキ、ミヤマナラなど樹種も多様である。イワナは、こうした川の最上流に生息し、淡水生物の頂点に位置する淡水魚である。

 そのイワナが生息する渓流は、写真のようにブナなどの渓畦林が豊かであることが第一条件である。イワナは、水生昆虫や水面を飛び交う羽虫、トンボ、渓畦林から落下する蛾の幼虫やクモなどの落下昆虫を口からあふれんばかりに食べて成長する。
 秋になると、ブナなどの落ち葉が渓流に降り注ぐ。その落ち葉を食べて水生昆虫が育つ。その水生昆虫をイワナやカワガラス、シノリガモが食べる。さらにヤマセミがイワナを狙ってブナのトンネルを行き交う。永遠に繰り返される生き物の命の循環は、豊かな渓畦林の存在が欠かせない。美しい水と緑の風景は、生き物の多様性を育み、持続的で安定した命の循環の風景でもある。
▲清流に生息する水生昆虫の代表・カワゲラ ▲氷河期の遺存種・トワダカワゲラ

 トワダカワゲラは、1931年、青森県十和田湖に注ぐ小渓流で発見されたことから、その名がついた。一般的なカワゲラと比べて、全体的に鎧を被ったような原始的な姿をしている。成虫に羽がなく、化石に出てくる昆虫そのもの・・・だから氷河期の遺存種と言われる。一般に夏でも水温が14度以下と低い山間渓流の湧き水や滝壺に生息している。この川虫が生息している谷は、昔から自然環境が良く残されている証拠と言われている。
▲渓流に自生する桑の木と赤とんぼ
 山地に広く自生し、7~8月頃、メスの木にはたくさんの実がつく。黒紫色に完熟した実は甘く美味しい。大量に採ってジャムや果実酒に利用する。

 かつて養蚕はどこでも盛んだった。現金収入となるマユを作ってくれたからだ。蚕を飼育するには、桑を作り、マユになるまで毎日桑の葉を摘んで運び、蚕に与え続けた。畑の半分、あるいは水田までつぶして桑畑にした。養蚕も米作りと同様、人の手が頼りだった。
▲初午(はつうま)・・・蚕(かいこ)や牛馬の祭日。百姓の副業として蚕を飼う家も多く、蚕の神様として深い信仰を寄せていた。「まゆぼ」は蚕の繭(まゆ)を意味している(田代蒐沢 村上玲子)
▲赤トンボ(アキアカネ)
 7月の渓流には、赤トンボ(アキアカネ)が群れをなして飛んでいる。夏の初めに羽化した赤トンボは、夏の暑さに弱い。羽化するとすぐ、涼しい山へ飛び夏を過ごす。涼風が吹く秋になると、体が真っ赤になり、何千匹もの大きな集団となって平地の水田に戻ってくる。
▲マムシ
 昨日大雨が降り、久々に太陽が顔を出したら、日当たりの良い岩にマムシが日向ぼっこをしていた。上の写真は、眠っているのではなく、私たちに気付き、攻撃態勢に入っているところ。つまり「トグロを巻く」とは、この態勢をいう。攻撃範囲は体長の半分ぐらいで、意外と狭い。それでも不用意に近づかず、1~2mは離れるべきだろう。

 マムシの胴には、大きな銭形の斑紋があり、薮や林床、河原の枯れ草の間で静止すると見分けにくい。敵が防衛範囲内に入ると、すばやく飛びかかる。毒は強いが、致命的ではない。数時間経っても、血清は有効に使えるので、まずは慌てず騒がず、落ち着くこと。咬まれた局部を動かさないようにして、病院へ直行すること。
▲ヤマカガシ
 全長1~1.2m、最大1.5mと言われるが、その最大値を上回るほどの大物。1984年、愛知県で中学生がこのヘビにかまれてなくなって以来,毒蛇として危険視されるようになった。体に赤と黒帯の斑紋が交互に並ぶ。この色合いにまず滅法弱い。しかも猛毒を持つ。性質は意外におとなしく、口の奥に毒牙があるため、滅多に咬まれて毒を注入されるおそれはないという。
▲マムシグサ・・・その名のとおり気味の悪い印象を受ける毒草。 ▲ヤマカガシがアズマヒキガエルを丸呑みした瞬間を撮る。
 ヤマカガシが自分の口より遙かに大きなアズマヒキガエルを丸呑みする瞬間は、生と死の食物連鎖を実感させられる。その凄まじい現場を目の当たりにすると、人間もこの食物連鎖の環の中にいることを思い出す。
▲夏、渓流で遊ぶシノリガモ(白神山地)
 シノリガモは冬鳥として、北日本に多く飛来する。一般に10月から4月、波の荒い海岸に群れで生活している。しかし、このシノリガモは追良瀬川源流で、しかも一般には考えられない8月に親子連れで生活している。1976年、白神山地赤石川上流で6羽の雛を連れたメスが発見され、国内で初めて繁殖が確認された貴重な鳥である。その後、岩手県、宮城県でも繁殖が記録された。

 繁殖地では、世界自然遺産の核心部を流れる追良瀬川のような山間の渓流に棲み、水生昆虫を捕食したり、藻類を岩からこそぎとって食べている。
▲ヒメオオワガタムシ
 高山のブナ林帯に生息するクワガタムシ。クワガタムシは一般に夜行性だが、この種は昼行性が強い。活動時間帯は朝10時から夕方5時頃。
▲渓谷と森林美(和賀山塊堀内沢、仙北市角館町)
 外国から移入された西洋式登山は、ピッケルを持ち、重い山靴をはき、険しい岩や雪の上を歩くことが本当だと思われていた。しかし、大正から昭和初期にかけて活躍した登山家・田部重治は、日本の山の美しさは、豊かな緑と清冽な渓谷にあると説き、渓谷と森林の美を賛美した。
▲八幡平・大深沢ナイアガラの滝(仙北市、田沢湖町)
 田部重治は「わが山旅50年」で次のように記している。
 「私は山旅により、日本の国土の独特性と日本民族の性格とに接し得たことに無上の喜びを感じている。ややもすれば、我々は都会に住む日本人に関する知識により日本人を判断する傾向をもつ。それは危険である。真の日本人的情緒は、田園や山村に生きる人間の間に保存されていることを、私は50年以上も山を歩いて見て来た。」
▲お盆の生花(「田代の行事食」より)・・・生花(ハス、ミソハギ、こがね花、おみなえし、谷地リンドウ)、季節の果物や野菜、お菓子類など珍しいもの、初物を上げた。
▲苔岩床(ノロ川上流桃洞沢、北秋田市森吉町)
 緩い流れのナメ床一面を覆う苔の群落。年間を通して大きな洪水もなく、水量が安定していなければ生育できないはずで、こうした光景は大変珍しい。
▲サケの遡上(八峰町水沢川)

 ブナ帯のもう一つの特徴は、清流にイワナやヤマメなどの陸封性のサケ科魚類が多く生息し、春には天然のアユやサクラマス、秋には大量のサケがふるさとの川へ帰ってくる点だ。かつては、早春の熊狩りに始まり、山菜、田植え、タケノコ採り、夏は川漁、秋は収穫、きのこ狩り、冬はウサギやヤマドリ、炭焼きなど、自然のサイクルに合わせて、豊かな水と緑に依存した心豊かな暮らしが生きていた。
▲オニグルミ
 山野の川岸などに育つ大きな木で、時には25mくらいの大木もある。実は直径4cmくらいで、ブドウの房のようにかたまってつき、重く垂れ下がる。熟れた実は緑色の皮つきのままこぼれ落ちる。実の中の種子は、よく洗って乾かし、木槌などで砕いて、中の子葉の部分を食用とする。
▲ブナの実(大深沢、仙北市田沢湖町)
 ブナの木は、毎年実をつけるわけではなく、豊作は3年あるいは6年に1度と言われている。ブナの実は、ツキノワグマやニホンザル、ムササビ、リス、ネズミ、ヤマネなどブナの森に棲む野生動物たちにとって欠かすことのできない貴重な食料だ。特に、ツキノワグマは、ブナの実を腹一杯に食べて脂肪を蓄え、冬眠に備える。
 秋になるとイガ状の殻が4つに割れ、中の実が二つこぼれ落ちる。ブナの実が豊作の年は、幾らでも拾うことができる。実は長径2cmほどで、形は蕎麦の実に似ている。生で食べても美味いが、一般的に炒って食べる。実が小さく、面倒なのが欠点。実を粉にしてクッキーや団子にして調理すると美味いという。
▲トチの実
 ブナ林ではたくさん採取できるが、アクが強くすぐには食べられない。厚い皮をむき、5mmぐらいにスライスする。木灰で煮る・・・一晩水にさらす・・・これを二回ほど繰り返さないとアクは抜けない。
▲アケビ(左:アケビの花、右:アケビの実)
 紫色に熟れた皮を縦に割って、青白い果肉を丸ごと一気に口の中へ。種は吐き出すのが一般的だが、ブドウと同じで種ごと食べた方が美味しい。さしずめ日本の森のバナナといった存在。皮は独特の苦味があり、砂糖と味噌を練り合わせて皮に詰めて焼く田楽や皮をスライスして油で炒めても美味い。
▲ツノハシバミ
 低木に3~4個の実が角のような奇妙な形(左の写真)をした実をつける。皮を剥くと、右のミニ栗のような実が入っている。フライパンで焼き、硬い殻を割り、爪楊枝でほじくりながら、白い種子を食べる。栗の味に似て、なかなか美味い。
▲ガマズミの実・・・スイカズラ科の低木で、秋に実は赤く熟する。小鳥やサルもこの実を好むという。大根を漬ける時にこの実を用いると、紅色に染まり、酸味がついた大根漬けができる。 ▲マタタビ・・・果実は楕円形で先の方がくちばしのように細まる。「猫にマタタビ」の実を食わせるとひどく興奮する。果実酒は、不眠症、神経痛、冷え性などに効くという。
▲サルナシ
 9~10月頃、黄緑色に熟れた実は、甘酸っぱく美味しい。果実を切るとキーウィフルーツにそっくり。木の実の中では人気が高く、生食のほか、ジャムや果実酒にして楽しむ。
▲ヤマブドウ
 他の樹にからまり、よく目立つので探すのは至って簡単。ただし不作の年も多く、いつでも簡単に採取できるわけではない。栽培のブドウより酸味が強い。山では生で食べても、それなりに美味い。家では、ジャムやジュース・・・果実酒は違法なので注意。
▲山の神様が宿る森吉山(1,454m)と美しき棚田(阿仁戸鳥内棚田)
「山神様は、それはそれは美しい女神様だども、気がたけだけしい。
夏の間は田畑の神様で里さ降りでおじゃるが、冬になるど神聖な山さ入られる。
そうすっと、けがれだ里のごどは一切お嫌いになるので、里の言葉は使わんね」
・・・だから昔のマタギは山に入ると、里言葉は禁止され、仲間だけに通用するマタギ言葉を使った。
▲山里の秋(羽後町田代蒐沢)

▽山の神様・・・田の神様が山の神様になる日は10月16日。田の神様にお礼と感謝の意。冬になり、雪が降ってくるので、田んぼの稲株を雪で隠しながら、山に登って山の神様になると言われている(羽後町田代蒐沢 村上玲子)

▽山の神の年取り(12月12日)・・・11日の夕方に餅をつき、お膳にワラを敷き並べ、丸餅12個を並べ、山の掛け軸に供える。その他山の道具を供え、山仕事の安全を祈る。翌朝、シトギモチを作って、お神酒とともに供えて拝む。神に供えたシトギモトは、危険な山仕事に出かける時に食べる。ところによっては、オコゼ(魚の干物)を供える。

▽田の神様・・・山の神様が田の神様になる日は2月16日。山の神様にお礼と田の神様にお願いする。今年も豊作でお米がたくさんとれますようにと祈願する。この日は山に入ってはいけない、木を切ったりしてはいけないので休日とした。
▲季節の草花・ススキ、リンドウ等・・・8月15日の満月を豆名月と呼ぶ。ゆで豆、団子、季節の草花などを添えて、お月様の良く見える縁側又は座敷の戸を開けて燈明を灯して拝む。9月15日の満月を栗名月と言い、ゆで栗、団子、お神酒、ススキやリンドウなどの季節の草花を添えて拝む(田代古米沢 佐藤タマ・長谷山優子)
▲ブナの峰走り(八峰町水沢川)
 秋が深まるにつれて、ブナの森は峰から色づき次第に谷へと黄葉してゆく。これを「ブナの峰走り」と呼んでいる。森では、ツタウルシ、ムシカリが一足先に紅葉し、やがてブナの黄葉が加わると全山燃えるような黄金色となる。特にブナの黄葉の中では、カエデやツタウルシの鮮やかな紅色がひときわ目に眩しい。
▲「水の郷」奥森吉・・・ノロ川桃洞の滝(北秋田市森吉町)
 桃洞渓谷は、クマゲラ保護センターが起点。ブナ林の中の散策路を約2.1km歩くと、桃洞沢と赤水沢の分岐点に出る。沢沿いにと1.3km進むと、渓谷のシンボル、桃洞の滝(女滝)に到着。上流部は、左岸枝沢の八段の滝、中の滝、男滝や無数のおう穴が連続しており、特に紅葉の季節が美しい。ただし、ザイルやスパイク靴あるいは渓流シューズなどの装備が必要である。
▲錦繍のノロ川渓谷(北秋田市森吉町)
 桃洞の滝の上流部は、遡行するほどに艶やかな渓谷美が展開する。清冽な流れが錦秋の色彩に染まり、峰にはゴヨウマツ、岩壁の斜面には、黄色と紅に染まった低木林が燃えるような色彩を放っている。遡行者は、神秘の造形美に奥へ奥へと吸い込まれていく。
▲錦繍の赤水渓谷兎滝(北秋田市森吉町)
 赤水沢入渓点から兎滝まで約3kmも一枚岩盤のナメ床、ナメ滝、大小の甌穴が続く。ナメとは、川床一面が岩盤になっていて、その上を水の流れが滑るように走っている状態をいう。ナメ床とは、ナメを走らせている岩盤のことで、天然の舗装道路を歩いているように快適である。それが3kmも続く水の回廊は、まさに天国の散歩道と言える。2.5キロ地点が玉川・赤水分岐点で、左の沢は、かつて玉川温泉への湯治場街道であった。
▲様ノ沢・九階の滝(北秋田市森吉町)
 赤水渓谷の北側に位置する様ノ沢源流は、屹立する一枚岩の壁が連続し、マタギでさえも「神様の沢」として畏怖し、昔から近寄れなかったと伝えられる秘境であった。獣道しかない険しい山容で、これまで「九階の滝」まで到達した人は、地元でさえ数えるほどしかいない秘境の滝である。この滝の全体の落差は100m以上もある。
▲ブナの黄葉(粒沢、北秋田市森吉町)
 一般に紅葉は紅色が基調になっているが、ブナは黄色に色づく。従って、ブナの森では「紅葉」とは書かず、「黄葉」と書く。
▲ブナ林の黄葉(岳岱自然観察教育林、白神山地・藤里町)
▲ブナ林の黄葉(粒沢、北秋田市森吉町)
▲朝日又川のナメ滝(秋田市河辺町)
 「自然との親しみは、ともすれば消極的な生活を欲求する心から生ずるものと考えられることがある。しかし私は、自分を最も力強く蘇らせ、私に新しい力を与えるものは毎も自然であることを感じている。・・・最もよく自然の価値を知らしむるものは旅であるという事を深く信じて疑わない。」(田部重治)
▲岩穴の名水(和賀山塊堀内沢上流マンダノ沢、仙北市角館町)
 「山に登るということは、絶対に山に寝ることでなければならない。山から出たばかりの水を飲むことでなければならない。なるべく山の物を喰わなければならない。山の嵐を聞きながら、その間に焚き火をしながら、そこに一夜を経る事でなければならない。そして山その物と自分というものの存在が根底においてしっくり融け合わなければならない。」(田部重治)
▲清流ときのこ
 水と緑の恵み・山菜やキノコは、食べるだけでなく、自然の造形美としても鑑賞に値する。採る前に、周囲の景観も含めてデジタルビデオやデジカメで撮影してみてはいかがだろうか。自然の造形美は人間の感性を刺激し、意外な芸術作品を生むかも知れません。
▲晩秋の渓流
▲晩秋のブナ林(白神山地、藤里町)
 山里に初霜が降り、秋も深まれば、ブナの森は黄葉から褐色へと変化してゆく。林床には、ブナの実が一面に落下し、迫り来る冬に備えて、野生動物たちの貴重な餌となる。何層にも堆積した落ち葉は、ミミズ、トビムシ、ササラダニなどの土壌生物やさまざまな菌糸によって分解され腐葉土へと変化、森をつくる大切な養分となる。新緑から黄葉、そして晩秋になるとブナの森は生き生きとした色彩を一気に失い、長い冬に突入する。
▲山里の冬(羽後町田代)
 「・・・空模様が急変し、パラパラと降り出したアラレは、わずかな秋の名残の草紅葉に小さな白い粉々をとどめて、冬の到来を告げる。板やムシロでの雪囲い、立木のコモ巻き、雪吊り、添え木などの作業がせわしい。ミゾレは湿りを含んで寒さにまだ慣れぬ体には、一段と冷気を感じさせる。

 町も村も、野も山も、雪に覆われてしまうと人々は炉端に集まり、背を丸めて炬燵を囲む。綿入れやウサギの毛皮の袖なしハッピは、すきま風の寒さを和らげてくれる。冬の夜長は祖父母の昔がたりの独壇場ともなる。寒月の夜、凍てついた道を踏みしめる足音がキュッキュッと響く。」(「勝平得之作品集 版画[秋田の四季]より」)
▲ハタハタと年越しのお膳
 自給自足を強いられ、気まぐれな自然を相手に生きていく上で、神への信奉は、今では想像もつかないほど強く、また尊いものだった。一年間の無病息災と健康で過ごせた感謝のお礼、そして来たる新年に向けての変わらぬご加護の祈願を込めて女たちが腕によりをかけて作った。

 自分の畑で穫れた野菜、春から秋にかけて採った山菜。魚は身近に手に入るものを用い、ハタハタは秋田の魚として欠かすことの出来ないもの。子持ち魚に紅白のナマス、ブリッコを入れ、めでたいことが数多くなるように。煮付けは大根・ニンジン・ゴボウ・山菜、それに海の物の昆布の組み合わせ。魚のヒレを入れたヒラ碗など。

 年越しのお膳は母から娘へ、そして嫁へと伝承されてきた(羽後町田代菅生 有原トミ)
▲穂のついたヨシ、豆殻、稲ワラを用いた雪中田植え(「田代の行事食」より) ▲雪国の小正月行事・雪中田植え(庭田植え、湯沢市駒形小学校)
 1月15日朝飯前、若水を汲んだ人が屋敷内の畑や家の側の田の上の雪を踏み固め、田んぼに見立てて儀式を行い、田ノ神様に稲の豊作を祈願した。

 稲ワラに大豆の枝茎と穂のついたヨシをヒモで結ったものを一株として9~12株を雪に植え付ける。これはヨシの穂のように稲穂が長くなるように、大豆のように米粒が大きくなるようにとの願いがあった。(羽後町田代畑中 柴田政蔵)
参 考 文 献
「滅びゆく森・ブナ」(工藤父母道著、思索社)
「森林彩時記 森を知ろう、森を楽しもう」(北村昌美著、小学館ライブラリー)
「ブナの森と生きる」(北村昌美著、PHP選書)
「ブナ帯文化」(梅原 猛ほか、新思索社)
「山と渓谷」(田部重治著、岩波文庫)
「渓(たに)」(冠松次郎著、中公新書)
山渓カラー名鑑「日本の樹木」(山と渓谷社)
自然観察シリーズ22「日本の両生類・爬虫類」(小学館)
「田代の行事食」(田代婦人部、平成6年3月4日)
「勝平得之作品集 版画[秋田の四季](井上房子、勝平新一、秋田文化出版)

 

水と緑の風景その1    水と緑の風景その2