Hachimantai/Part Tamagawa source way

 十和田八幡平国立公園の一方の核となる八幡平は、樹氷と温泉群で有名な山域で、四季を問わず、観光客や登山、アウトドアなどで賑わっている。鹿角市から八幡平に延びる沿道には温泉が多く点在し、アスピーテラインの近くには大沼、後生掛、蒸の湯、大深など、古くから山の湯として親しまれてきた。山腹や低地にはブナ林、高山帯にはアオモリトドマツなどの針葉樹が生い茂り、見事な対比を見せてくれる。

 山の湯煙が原生林にたなびく昔の面影は薄れてきているが、茶臼岳から黒谷地、源太森、八幡沼に至る冷涼な高原地帯や南八幡平縦走コースは、いまだ原始性の香る高層湿原や針葉樹の森に包まれている。さらに深い谷底を走る玉川源流部は、流程が長く、水量も豊かで、訪れる人も稀な原始境となっている。ブナとアオモリトドマツなどの混交林は、白神山地や和賀山塊とは、また一味も二味も違う趣がある。
▲大深沢源流に懸かるナイアガラの滝
 この滝は、幅が長く水量も多いことから「ナイアガラの滝」と呼ばれている。
 ここまで至るには、泊まりを覚悟で沢を歩かないと、辿り着けないが、源流部に懸かる滝としては、県内一冷涼感を誘う美しい滝である。

 大深沢は、大深岳を源流とし、流程18キロ、十指に余る枝沢を集め、五十曲地点で玉川本流へ流れ込む。その名が示すとおり奥が深く、長大な渓である。

 秋田フキは、茎の長さが1.5m、葉幅は1.3mにもなるお化けのようなものだが、この原産地が北秋田の長木沢とこの大深沢だと言われている。人跡稀な沢には、決まって伝説も多い。昔から、大深沢の源流へは、天狗でもなければ入り込めないと信じられていた。それだけに、今でも人跡稀な原始性をとどめている。
▲ナイアガラの滝上は、ナメ、ナメ滝が連続する別天地
 水の力で磨かれた岩盤・・・そのナメのスロープを美しく透き通った水が無尽蔵に流れている。その聖なる水が心の中まで飛び込んでくるような美しい流れが続く。


▲北ノ又沢、連続するナメ滝を望む
 対岸に懸かる25m滝をよじ登り、滝上から谷を見下ろすように撮影。北ノ又沢は、ナメとナメ滝が連続し、暑い夏ほど清涼感を味わいながら遡行できる。
▲北ノ又沢出合いのナメ滝・・・北ノ又沢や東ノ又沢は入り口から美しいナメ滝となって合流している。さらに、そのすぐ下流の右岸から仮戸沢が合流していることから、通称「三ツ又」と呼んでいる。この三ツ又からナイアガラの滝まで穏かに傾斜した岩盤や一枚岩の上を水が滑るように流れるナメとナメ滝が連続している。
▲関東沢最大の滝F3、3段12m滝
 滝上にも二段の滝が連なり、滝は3段で総落差は12mほど。大きな釜が最大の特徴で、釜の広さ、深さは大深沢でナンバーワンである。滝の壁はいくつもの人間の頭のように突き出し、滝に打たれる修業僧のようにも見える。
▲北ノ又湿原、コバイケイソウの群落・・・この湿原は、北ノ又沢源流左岸の標高1370m〜1415m付近にある。沢登り以外ではお目にかかれない秘境の湿原である。 ▲天狗湿原のニッコウキスゲの群落・・・天狗湿原は、東ノ又沢と関東沢の中間点、標高約1100mのなだらかな尾根にある。代表的な秘境の花園である。
▲八幡平稜線をゆく
 360度のパノラマを楽しみながら歩く。南八幡平縦走コースは、チシマザサが密生し、トレースが困難な場所もあるので注意が必要だ。さらに稜線から、沢に入るには、密生した笹で迷いやすいので磁石と地図は必携品だ。
▲伝左衛門沢ヨドメの滝25m
 伝左衛門沢の階段状ゴーロを上ると、標高912m二又に達する。その右股の滝ノ沢に入り、標高約1,070m地点に幽谷の滝にふさわしいヨドメの滝がある。見渡す限り屏風のように屹立す岩壁から、垂直の白い帯となって落下する豪快な直滝だ
▲大深沢の初秋を彩るダイモンジソウ
▲北ノ又湿原、コバイケイソウの大群落・・・まさに桃源郷のような美しい花園が広がっている。 ▲八幡平のショウジョウバカマ
▲八幡平稜線に咲くエゾオヤマリンドウ
 秋を代表する高山植物
▲サンカヨウ
 深山の林内に生える多年草。茎の先に2cmほどの小さな白い花を開く。花が終わると、青紫色の実をつける。
▲大深沢下流右岸の出合い滝 ▲大深沢名物「ダルマ岩」
▲大深沢ナメ滝5m・・・「洗礼の滝」
▲深山幽谷に懸かる2段10mの滝(大深沢)
 両岸が圧縮され、ブナと針葉樹が谷を埋め尽くし暗いが、それだけに流れ落ちる清冽な流れが際立って見える。
▲ヤセノ沢出合い上流部のゴルジュ終点に懸かるF3の滝
▲ヤセノ沢支流滝ノ沢の大滝・・・標高825m左岸から流入する滝ノ沢。急なゴーロの階段を少し進むと、総落差100mもあろうと思われる見事な滝が眼前に迫る。旅人を拒絶するかのように屹立する岸壁、天上から降り注ぐ巨大な瀑布・・・まさに「滝ノ沢」を象徴する滝である。 ▲ヤセノ沢F1、四条の滝・・・滝ノ沢を越え、出合いから約2kmほど上ると、やっと滝に出会う。二条から三条の滝は珍しくないが、四条の滝は珍しい。この滝は、2万5千分の一図に記された唯一の滝である。
▲ヤセノ沢F3、二段の滝8m・・・滝に巨大な風倒木が突き刺さっていた。滝の轟音を聞きながら倒木を跨ぎ、上を見上げれば、緑の樹幹から澄み切った青空が見える。日本独自の渓谷美、原始性、生き物のごとく躍動する飛瀑、水と緑滴る四囲の景観は素晴らしい。 ▲スズノマタ沢ヨドメの滝・10mナメ滝・・・標高694m二又で明通沢とスズノマタ沢に分かれる。右のスズノマタ沢に入り、500mほど進むとヨドメの滝がある。滝の幅が広く、大深沢のナイアガラの滝に似ていることから、「ミニナイアガラ」とも呼んでいる。
▲葛根田川の美景・・・葛根田名物の函に懸かるナメ滝
▲葛根田大滝二段25m ▲葛根田川源流滝ノ又沢F1の滝
▲玉川温泉の大噴(おおぶけ)
 玉川温泉には、大小さまざまな湧出口があり、中でも「大噴と呼ばれる湧出口からは、98度の温泉が毎分8,400リットルも噴出、一ヶ所からの湧出量は日本一を誇る。その下流は、幅3mの湯の川となって玉川に注いでいる。この温泉は、PH1.2ほどと日本一の強酸性水である。