4メートルの高さからガッと口を開き、すさまじい形相で見下ろす鹿嶋(かしま)様の顔には、歴史に刻まれた神々しいまでの迫力を感じる。千葉の国立民族博物館にある「鹿島様」は、湯沢市岩崎から持っていったものだ。
 湯沢市岩崎地区の三つの町内(末広町、栄町、緑町)では、それぞれ高さ約4m前後のワラ人形を作って、村の入口に奉り、疫病退散や家内安全、五穀豊穣を祈願してきた。このワラ人形を「鹿嶋様」と呼び、現在も春と秋の二回化粧直しが住民の手で行われている。

 今は、町を見下ろす高台や車の行き交う道路ばたに立っているが、鹿嶋信仰の一端をうかがわせる祭りの形態や人形作製の技術・工程は、古来より地域住民に連綿と伝承されてきたものである。また、人形の骨組み以外は全て稲ワラで作られ、各部品の作製も稲作農業の中で培われたきたものの応用であり、この地方特有の文化を表現したものといえる。 
緑町の鹿嶋様は、国道13号線沿いの湯沢市岩崎小学校入口にあり、町内が一望できる位置に鎮座している。誇張されたシンボルから「男性神」であることがわかる。陰毛は杉の若葉を用いている。

縁町の鹿嶋まつりは、4月第4日曜日(年1回)。午前8時の法螺貝の音を合図に、全戸より成人男子各1名が集合し、わら人形の道祖神(男のかしま様)の衣替え(作業分担)を行う。
作業終了後、御幣を立ててローソクを灯すほか、御神酒を供えて、五穀豊穣や町内安全、無病息災、家内安全などを祈願する。
岩崎神社の奥に、末広町と栄町の二つの鹿嶋様がある。
八幡神社社殿の奥に水神社があり、二つの鹿嶋様はこの裏手にある。右の写真は、栄町の鹿嶋様。
4月22日に行われた栄町の鹿島様衣替え作業。ワラを持ち寄り、表皮(柔らかい部分)を取り除き茎の部分を選定する作業をしているところ。 しめ縄のケバ取り
調整したワラを縄で編み込む。スダレ状に編んだものを数十パーツ作成する。 こうした伝統的なワラ細工は、やはり年配者が上手い。
スダレ状のパーツを重ねながら太い腕を作っていく。指先もワラ細工だ。 木彫りの面は、代々伝わる貴重なもの。
刀のツバもワラ細工。稲作文化の結晶でもあるワラ細工が随所に生かされている。 完成した鹿嶋様。
末広町の鹿嶋様。太陽光線が鹿嶋様にだけ照る不思議な空間、杉の木立を背に仁王立ちする鹿嶋様は、「米の国・秋田」が誇る稲作文化の傑作である。

秋田県湯沢市岩崎地区の鹿嶋様位置図

取材:雄勝総合農林事務所土地改良課  取材協力:湯沢市