高層湿原を有する田代岳(1、178m)は、古くから水田信仰の山である。五穀豊穣の神「白髭直日神」を祭る田代山神社は、毎年7月2日に祭りが行われる。

 田代岳の九合目の湿原に散在する約120の池塘は「神の田」と称され、そこに自生しているミツガシワの花のつき具合や根の張り具合などの生育状態、池塘の水の張り具合で、その年の稲作の豊凶を占う伝統的慣習が伝承されている。

 田代岳九合目の高層湿原。点在する池塘を「神の田」と称し、そこに生息するミツガシワを「稲っこ」と称して占う。

 水田信仰の山・田代岳山頂にある田代山神社。田代神社は天正年間(一五七三~一五九二年)の創建とされる。一方、作占いがいつごろ始まったかについてはっきりと記述したものはなく、江戸時代半ばごろにはおこなわれていたのではないかとの推測もある。作占い行事は平成四年、県記録選択(内容などを総合的に把握する必要がある。)無形民俗文化財になった。
 山頂にある田代神社は半夏生を例祭日にしている。神職が池塔を田に、そこに生えているミツガシワを稲に見立てるなどしてその年の作占いをする。作占いの結果を聞くため、あるいは豊作祈願などで、多くの人たちが山頂を目指す。八畳ほどの広さの神社の中では、鷹巣町綴子の綴子神社の五代目宮司が、訪れた人に作占いの結果を告げる。神社では祈とうも行われる。
 作占いに使われる池塔は神の田とされ、南から北へ「早生」「中手」「晩生」と呼ぶ「早生」と「中手」の間を木道が通る。三つの田に生えているミツガシワの生育具合が作占いの重要な判断材料になる。さらに一帯にある高山植物や樹木の育ち具合、池塔の水の量、周辺の様子も勘案して作柄を予想する。
 また、作占いで同時に行う「サンゴうち」と呼ばれる神事で神の啓示を得るという。三個の五円玉それぞれに和紙のこよりをとおして長さ20cmのペンダントにして早生の田に投げ込む。三個は早生、中手、晩生を表し、その沈み方で神からのメッセージを受け取る。