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 鷹匠は孤独な狩人である。狩りの主役はクマタカであり、彼は影の主役に過ぎない。鷹匠はカケにクマタカを止まらせ、右手に雪ベラを持って、尾根づたいに沢の斜面を見ながら歩く。タカは獲物を本能的に見つけると、体を引き締め、羽をすぼめる。出撃にそなえてタカは足を踏ん張る。その爪の圧力がカケを通し、鷹匠の腕に戦慄をともなって電流のように伝わる。

 いよいよ戦闘体制。林をぬけて斜面を登っていく野ウサギが見える。それっ、鷹匠の合図にタカが空に舞い上がる。一瞬見上げる鷹匠の魂も遠い原始へ還る。飛翔のあとの熱い衝撃、はるかに、ふりむいて硬直する野ウサギの凍る目。

 狙った獲物を一撃でつかみ、翼でおおう。鋭い爪は、野ウサギの背骨をうち砕き、肉を深く食い込み、破られた心臓から火照る小さな血のしたたりは、純白の雪にしみ込んでいく。鷹匠は、山の斜面を滑り降りてすばやく獲物を取り上げる。そして報酬の前足を一本切り取って、タカに投げ与える。(野沢博美写真集「鷹匠」解説・小坂太郎より)

 

 

左手にカケと呼ぶ綿入れのような布を巻き、鷹をつかまらせ、腰にナタ、右手に雪ベラを持ち、カンジキをはいて山を歩く。狩猟期間は、11月15日から翌年の2月15日までの3カ月と、野ウサギの有害駆除が許可される3月いっぱい。 鷹匠は、7世紀に書かれた古事記に出てくるほど長い歴史をもつ生活文化である。冬山を一日30~40キロも歩き、鷹との深い交流の中で自然に対する畏敬と感謝の念をもち、自然に逆らわず、地球者としての人間本来の原点がある。その心の美しさ、豊かさは、人々を深い共感に導くのであろう。
 
時には走り、時には跳ぶ。当然、鷹匠の体は揺れるが「横ブレするようでは、鷹が人の車酔いのように疲れて猟にならない」という。ただ、疲れないように鷹を持って歩くだけでも最低1年、跳んでも走っても大丈夫になるには何年もかかる。おいそれと鷹匠の後継者は作れるものでもなく、さらにまるで儲からない仕事である。
鷹は本能的にウサギを見つけ、体をキュッと引き締めて戦闘体制に入る。鷹匠は大声で叫んだり、雪ベラで木をたたいて林からウサギを追い出し、鷹が襲いやすくなったころあいを見て「それっ」。

 

 

鷹匠の左手から離れた鷹は、一直線にウサギ目がけて飛びかかり、鋭い爪をたててつかみ殺す。

 

 

狙った獲物を一撃で倒し、両翼で覆う。鋭い爪はウサギの背中を貫き、肉に深く食い込む。小さな血の滴りは、純白の雪に染み込んでいく。

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