水と緑の風景その1    水と緑の風景その2


早春~初夏:ふるさとの四季、行事食、雪代、イワナ、カモシカ、サル、兎、クマ、アズマヒキガエル、
新緑、木の花、美しき水・水土里の風景、日本一のブナ・クリ、クマゲラの森、秋田杉、滝の頭湧水・・・
▲八峰町二ツ森から世界自然遺産白神山地青森県側を望む
 白神山地は、秋田県と青森県にまたがる約65,000haに及ぶ広大な山岳地帯の総称である。平成5年12月、原生的なブナ林が残る16,971ha(秋田県4,344ha、青森県12,627ha)が世界自然遺産に登録された。

 白神山地のブナ林に象徴されるように、「ブナ林は東日本の原風景」と言われ、西日本の「照葉樹林文化」に対して「ブナ帯文化」と呼ばれている。ブナ帯は、東北から北海道西部にかけて分布し、ブナ、ミズナラ、トチノキ、サワグルミ、ホオノキなどが主要樹種。ブナ帯文化の特徴は、「水と緑の風景」の美しさもさることながら、生き物の多様性とその恵みの豊かさにある。
▲生命の源・美しき水(和賀山塊玉川水系、仙北市角館町)
 「米の国」「酒の国」「美人の国」を支えてきたのが、この美しき水である。喉を潤すのもいいが、この聖なる流れの前に立てば、私たちの渇いた心をも潤してくれる。

●求められる安全な水(第3回世界水フォーラムより)
 2025年までに、世界人口の半数にあたる40億人が「水ストレス」に直面し、3人に1人が水不足に悩むと推測されている。増え続ける世界人口と経済活動の拡大が、水需給バランスを破綻させる可能性が高いと言われている。

・水が原因の病気で子供たちが年間400万人(8秒に1人)死亡。
・発展途上国における病気の80%は汚水が原因。
・世界人口の約28%がきれいな飲み水を手に入れることができない。
・淡水魚の20%の種は水質汚染により絶滅の危機にさらされている。
▲早春の根回り穴(森吉山系)と雪解け水
 暖かい春の陽光が、深閑としたブナの森に降り注ぎ、次第に渓谷の凍てつきをやわらげてゆく。ブナの根元は、日中の日差しで温められた幹の輻射熱で丸く解けてくる。やがて渓谷は、雪解け水で溢れかえる。
 ブナ林にカタクリやキクザキイチゲ、イワウチワ、ニリンソウなどの春告げ花が咲く頃、早春の谷は、午後ともなると、雪解け水が加わって、流れは白く濁り、一気に増水してくる。これを「雪代(ユキシロ)」と呼ぶ。
▲秋・・・寿命尽きて倒れたカモシカ(白神山地)
▲雪崩にやられたニホンカモシカ(和賀山塊) ▲新芽を求めて森を彷徨うカモシカ(白神山地)

 春は、雪崩に巻き込まれた動物や雪圧に耐えかねて倒れた倒木も少なくない。春爛漫とは言え、哀歓こもごもの季節でもある。4月中旬以降になると、冬眠から覚めたツキノワグマは、雪消えの早い雪崩地に集まり、前の年に落ちた堅果類の実や雪崩で死んだ動物の死体などを食べるという。
▲待ち遠しい山里の春(左:羽後町飯沢、右:鷹匠の里・羽後町田代上仙道)

 「柔らかな雨音は春を告げる音だ。雲の切れ間からのぞく日差しはまだ鈍い。しかし、雪のかさは日ごとに低くなり、ザラザラの雪をほっつき返すと鮮やかな萌葱のバッキャ(フキノトウ)がツンとした姿をみせる。梅や桜の芽吹きも雨を吸って膨らみ、赤色を増してゆく。新しい命のはぐくみだ。

 いっとき早く地面の感触を得たくて、人々は踏み固まった雪をたたき割る。待ちきれない春への思いが、日々の暮らしの作業となる。

 風花の散り舞う日に梅が一輪、また一輪とほころぶ。田打ち桜ともよばれるコブシがフーワリと幻想的な花をつけると、誘われるように桜が開花し、それに呼応するかのようにツツジ、アヤメと花々が妍を競う。北国が撩乱の春となる。」(「勝平得之作品集 版画[秋田の四季]より」)
▲迎春花・マンサク
 早春、残雪の中から葉に先立って、4枚の細長い黄色のリボンのような花を咲かせる。
名前は、群れをなして咲く花を「豊年満作」に例えたという説と、真っ先に花が咲く「まんず咲く」が転じたという説がある。北海道や青森の一部では、春一番に咲くフクジュソウをマンサクと呼ぶ。鹿角地方では、フクジュソウをツチマンサクと言っている。

 秋田の山間部では、マンサクの花が一斉に咲くと気候が良く、花が多く咲いたり、花が下向きに咲くと豊作、と言ったように作柄を予言する花として信じられてきた。菅江真澄は、雄勝郡柳田付近の口遊びとして、次のように記録している・・・「まんさくは 雪の中より急げども/花は咲くとも実はならぬ」
▲桃の節句
 神棚にひしもちと白酒を供えて、女の子の無事な成長を祈る。ひしもちの中には、旧3月3日頃に、萌え出した土手のヨモギの芽を摘み、米のとぎ汁でゆでたものを入れて作り、白酒の方には、桃の枝を三個の盃に一本ずつ添える。

 その日は仕事も休み、生家に遊びに帰れることから、嫁にとっては楽しみに待つ日であった。ひな人形を飾る家はごくまれで、自分の家にある人形を全部並べて飾り、ひなもちのほかに、料理を供えて近隣の子どもたちと一緒に楽しんだ(「田代の行事食」(田代婦人部)、羽後町田代落合 佐藤ノブ)
▲ふるさとの春①(仙北市西木村)
▲ふるさとの春②(羽後町軽井沢蒐沢)
 雪国の民話に出てくるような懐かしい風景・・・茅葺き民家とタンポポの黄色やフキの緑葉、スイセンの白と黄色の花が彩りを添えて美しい。
▲端午の節句・・・神様にちまきを供え、軒に菖蒲(しょうぶ)とヨモギをさし、悪魔よけとした。菖蒲とヨモギは、束ねて風呂に入れ、枕元にも供えた。また、鍬や鎌にも結わえ付け、その日は村人全員、休日とした。

 ちまきは、鬼の角、菖蒲は刀の意味、いずれも邪気を祓うとされた。長芋のつる、しょでこで「良い事聞け、良い事聞け」と耳のそばで三回まわしておまじないした(羽後町田代蒲倉 鈴木エミ)
▲タムシバ
 残雪の山に一際大きな白花を咲かせ、遅い春の訪れを告げる。花には芳香がある。
▲ブナの新芽を貪るサル(白神山地)・・・森はレストラン
 世界の最北限に生息する下北の調査によると、春は、カタクリの花、フキノトウ、キバナイカリソウの花や葉、イタヤカエデやオヒョウの柔らかな若葉。夏は、エビガライチゴの実、オオハナウドの花、ツノハシバミの実、ハリエンジュの花。

 秋は、クリ、ヤマブドウ、マタタビ、サルナシ、赤トンボ、オオイタドリの虫、ガマズミ、ムラサキシキブ、マツブサ。冬は、松ぼっくり、キノコ、木の冬芽や樹皮など。さらに昆虫、クモ、カタツムリ、カエルの卵や鳥の卵まで食べるという。
▲白神山地のニホンザル(絶滅危惧種1B類)
 白神山地には、十数頭から数十頭の群れをなして生活している。ブナ林は食べ物が豊富なことから、群れが連続的に分布している。世界の北限に位置する北東北の中でも比較的安定した個体群と言える。
▲山ウサギ(撮影:5月上旬)
 冬の体毛は真っ白だが、早くも茶色に衣替えしているのが分かる。最近、生息数が激減している生き物の一つ。かつて、山ウサギは県内の至るところに生息し、肉屋が一軒もない山村にとって、冬の最大の味覚だった。
▲スプリングエフェメラル(春のはかない草花)
 ブナの芽が萌え出る前の林床には、イワウチワ、キクザキイチゲ、カタクリ、ニリンソウなどが我先にと競い合うように咲き乱れる。ブナが開葉すると、光が遮断され、はかなく消えてしまう。これを「スプリングエフェメラル・・・春のはかない草花」と呼んでいる。
▲ブナの芽吹き
 ブナは、葉が開く前に、丸く膨らんだ花芽が開く。その芽を包む鱗片葉は赤茶色で、遠くから見ると樹冠が赤く煙ったように見える。膨らんだ芽が割れると、葉と花が同時に開きはじめる。オス花は、大量の花粉を放出して落下する。ブナは、風で花粉を飛ばす風媒花である。その内の数億分の一とも言われる超低確率で、メス花と受粉、やがて果実に成長することができる。
 ブナの芽吹きは、暖かくなるにつれて、谷底から峰に向かって、ゆっくりと駆け上がってくる。そして黄色い花を咲かせ、淡い黄緑色の新葉を開き、山全体が萌黄色に染まる。雪国の森は、深い眠りから覚め、命が芽吹く新緑の頃が最も美しい(白神山地二ツ森)
▲ブナの幹に刻まれたナタ目
 左の写真・・・「登山記念七人組 昭和三年」(和賀山塊堀内沢)

 右の写真・・・北秋田市阿仁町打当マタギの森(白子森真角沢)で見つけたブナのナタ目。「熊取り 午後から雨降り」と刻まれている。ブナの森を歩いていると、白い樹肌に「熊」「マス捕り」「イワナ」「水」といった刻印を見掛けることがある。こうした幹の刻印に、ブナ帯に生きる人々の文化を感じ取ることができる。雪国秋田の春グマ狩りシーズンは、残雪期の4月下旬から5月上旬である。
▲ツキノワグマ(北秋田市阿仁町「熊牧場」) 
 ツキノワグマは、胸に月の輪の形の白い模様(右の写真)がある。クマは雑食性で、ミズバショウ、サゼンソウ、ブナの若葉、アザミ、アイコ、ウド、タケノコ、エゾニュウ、ミズ、アキタフキ、キイチゴ、サワガニ、蜂蜜、蜂、アリ、オニグルミ、秋はブナ、ミズナラ、クリなどブナ科の実などを食べる。冬眠は11月中旬~4月下旬、一部のメスは1~4頭を出産する。
▲春、ブナの若葉を貪った時のクマの爪痕(和賀山塊) ▲クマが越冬穴の存在を誇示するサイン(和賀山塊)
▲新緑の輝き
 ブナの森が最も輝く時期は、萌え出たばかりの新緑の季節。ブナの森は、半年間貯めたエネルギーを一気に発散させるかのように、驚くほど眩しい輝きを放つ。
▲春紅葉
 萌え出たばかりの新緑の斜面にアクセントを添えるヤマザクラの白。よく見ると、春の芽吹きの色彩は、一つ一つが微妙に変化し、多様性に富んでいる。時が経つにつれて、ヤマザクラやツツジ、フジなどの花の色が加わると、色彩は無限に広がる。
▲オオヤマザクラ
 東北のブナ林に自生するサクラは、オオヤマザクラ。ヤマサグラより葉も花も大きい・・・薄紅色で新緑に映え、そのコントラストが美しい。北国では、低山でも見られるが、本州中部では、標高700~1500mの高山に自生するという。この樹皮を利用した角館の樺細工は、伝統工芸品に指定されるほど有名である。
▲美しきゴーロ滝(小阿仁川水系、上小阿仁村)
▲オオカメノキの白花
 新緑の頃、ブナ林内でよく目立つ白花で、一見アジサイに似ている。卵円形の大きな葉を亀の甲羅に見立ててオオカメノキという。右下の紫色の花はシラネアオイ。
▲クロモジ
 薄黄緑の花と上向きに開く葉が、羽根突きの羽根が青空から舞い降りてくるように見え、とても美しい。樹皮と幹には、独特の香りがある。葉からはクロモジ油がとれ、香水や石けんに使われる。枝は皮付きのまま、ツマヨウジや細工物に使われている。
▲日本初の温水路(にかほ市象潟町)
 鳥海山の融雪水と湧水に涵養された清冽な水は、夏でも摂氏10度前後と、稲作にとっては冷たすぎて、古来より冷水害をもたらした。温水路は、水路の幅を広く、水の深さを浅く、流れをゆるやかにし、多くの落差工を設けている。ゆっくり流れる温水路は、太陽熱を吸収させ、水温が上昇する。1927年(昭和2年)、佐々木順次郎が考案した温水路は、古来より悩まされ続けてきた冷水害を見事に克服した。
▲美しき美土里の風景(羽後町軽井沢蒐沢)
 羽後町軽井沢周辺は、山の懐に抱かれ、茅葺き民家と谷川に向かって階段状に造られた棚田が連なっている。中でもアザミ沢集落は、日本の昔話に出てくるような懐かしさを感じる。それは、私たちの暮らしの原点が、自然の恵み豊かな山村にあるからであろう。
▲ホウノキ
 ホウノキは、葉が30cmほどとデカク、花も直径15cmほどとデカイ。大きな葉は、昔から食べ物を盛ったり包んだりして利用した。
▲ほの葉まま
 大きなホオノ葉にご飯ときな粉、ご飯と納豆を入れた「さつきのたばこ」料理。農家にとって田植えは稲刈り同様、一年で最も大切で忙しい作業。たばこ(休憩)は特に待ち遠しく、田んぼを前にムシロを敷き、車座になって男たちは酒っこを、女や子どもは「ほの葉まま」を頬張って食べ、一時の安らぎを求めた(「田代の行事食」(田代婦人部)、田代軽井沢 佐藤 タキ)
▲勤勉な水土里の風景(羽後町軽井沢蒐沢)
 美しい水を湛えた棚田・・・田んぼより広いような畔の法面だが、全てきれいに草刈りがなされ、まるで庭園のようにも見える。手入れの行き届いた棚田の風景から、厳しい自然・風土に逆らわず、勤勉さに貫かれた百姓の魂が伝わってくる。だから美しい。
▲山の恵み・山菜文化
 清冽な渓流の岸辺や斜面には、ふきのとう、アザミ、コゴミ、ミズ、シドケ、アイコ、ホンナ、ウド、ヤマワサビなど、春の山菜が次々と土から顔を出す。秋田の山と渓谷は、山菜の宝庫で、昔から利用される山菜の種類も多く、地域独自に発達した調理法も多彩で山菜文化とも言われている。山菜は、秋田を代表する行事食や日常の暮らしに欠かすことのできない食材である。
▲ミズ(ウワバミソウ)
 一年中水が涸れることなく流れる小沢周辺には、瑞々しいミズ(ウワバミソウ)が群生している。ミズは東北の方言で、茎が柔らかく水分が多いところから名付けられた。
▲さなぶり(田植えの出来上がり料理)・・・山の恵みを利用したタケノコの煮しめ、ミズのお吸い物。田植えが終わると、豪華なさなぶり料理をつくり、作業に関わった全ての人を招待して宴が始まる。たけなわになると、歌が出始め「オラえのイモの子芽ぞろいするゾ」と競ってのど自慢。一束の苗に、農の生きる全ての祈りと願いが込められ、夜の更けるまで杯を交わし、田植えの労を癒した(羽後町田代軽井沢 佐藤ミヨ)
▲タケノコを利用した御祝儀・・・タケノコの煮物、タケノコの吸い物
 左の写真左が本膳、右が二の膳。本膳左下がタケノコを使った煮物(さといも、うど、にんじん、タケノコ、コンニャク、赤きのこ、さけ)、二の膳の右下がタケノコの吸い物(鶏肉、タケノコ、コナラ)(田代上門前 長谷山富太郎)
▲夢幻の風景
 霧は、谷の表情を一変させる。残雪の山に雨が降ると、時に濃い霧が発生する。谷が濃霧に包まれると、白と黒の水墨画のような風景に一変・・・その森と水が織り成す夢幻の風景は、神秘的で美しい。
▲滴る新緑の美
▲アズマヒキガエルの産卵
 5月中旬~6月上旬頃、繁殖期になると、渓流の湧水が滴るような池や水たまりに多数集まってくる。オスは「クックックッ」と鳴き、後から池にやってきたメスを奪い合い大騒ぎをする。その光景は、まさに「蛙合戦」そのものである。
▲クロサンショウウオの卵のう
 卵のうは特徴のある白いアケビ形である。
▲ムラサキヤシオツツジ
ブナの新緑に一際映える紅紫色のツツジが咲くと、
全山、萌黄色に輝く新緑のピークを迎える。
葉は互生で枝先に集まってつき、葉が開くと同時に花を1~6個づつ咲かせる。
▲ヤマツツジ
ムラサキヤシオツツジが散り始めると、朱色のヤマツツジが咲き始める。
新緑にムラサキヤシオツツジ、深緑にヤマツツジが良く映える。
自然の造形美は、実に素晴らしい演出をするものだと感心させられる。
▲ブナの幹を伝う雨の滝、緑のダム(和賀山塊堀内沢オイの沢)
 ブナは、天に広がる大きな枝葉で雨を受け止め、まるで漏斗のように集めた雨水は、幹を伝い滝のように流れ下って、根元へと送水される。その雨水は、厚く積もった有機物を多量に含む土壌に吸い込まれ、大量の水分を貯め込む。それが「緑のダム」と呼ばれる所以である。
水と緑の風景inあきた
▲二ツ森から赤石川源流部と岩木山を望む ▲二ツ森から藤里駒ケ岳を望む
▽二ツ森登山(1,086m)
 二ツ森山頂には、青秋林道終点・登山口から約40分程度で登れる。老若男女誰でも登れる初心者コース。しかも山頂からは、秋田県側と青森県側にまたがる世界自然遺産地域を一望できる。特にブナ原生林が萌黄色に染まる新緑の季節が美しい。 
▲岳岱自然観察教育林(白神山地、藤里町)
 左は推定樹齢400年のブナ。右は白神自然庭園の趣がある苔むした巨岩とブナ林。県道西目屋二ツ井線から黒石林道分岐点より約6.6km。ブナ林の広さは約12haで、気軽に白神山地・ブナ原生林の素晴らしさを体感できる。
▲日本一のブナ(仙北市角館町、白岩岳)
 幹周り10.1m、樹高25m、推定樹齢700年以上。近づけば、思わず拝んでしまうほどの迫力がある。大相沢林道をゆくと「日本一のブナ」の標識がある。尾根沿いに40分ほど歩けば、日本一のブナに会うことができる。
▲巨樹の森、和賀山塊小影山
 右の写真は日本第二のブナ(仙北市田沢湖町、小影山)。幹周り8.1m。日本一のブナは、明らかに老木だが、第二のブナは、年齢を感じさせないくらい若々しい。小影山周辺は、「巨樹の森」と呼びたくなるほど巨木が林立している。
▲日本一のクリをめざすには、危険な箇所も多い。ザイルでサポートしながら上る。
▲日本一のクリ(仙北市田沢湖町、和賀山塊)
 幹周り8.13m。推定樹齢は、800年。山側は、巨大な空洞となっている。このクリの実を食べれば、きっと不老長寿になる、そんな気がする神木である。
▲巨樹の森に懸かる滝・百尋の滝(仙北市)
 日本一のブナの森から、涸れることなく湧き出す行太沢に懸かる滝で、落差はおよそ60m。
▲奥森吉・クマゲラの森(北秋田市森吉町)・・・本州のクマゲラは、白神山地と森吉山の二つで安定的に繁殖していることが確認されている。森吉山東麓のノロ川と黒石川流域に広がるブナ林をクマゲラの森と呼んでいる。昭和53年6月、秋田県野鳥の会がこの森で初めて繁殖を確認。以来、森吉山一帯が国設の鳥獣保護区に指定された。さらに1,213haの特別保護区が指定され、国内でも有数のブナ林が残った。それだけに一見の価値がある。
▲アカゲラ(森吉山野生鳥獣センター)  ▲クマゲラ(森吉山野生鳥獣センター)
 森吉山野生鳥獣センターでは、ブナ林の四季と生き物の暮らしやクマゲラの生態などを詳しく学ぶことができる。

 例えばクマゲラは、どのようにして幹に穴をあけ、木の中にいる幼虫を食べているのだろうか・・・「クマゲラは木に穴をほるとき、大きな頭をハンマーのように働かせ、先がとがった堅い口ばしをノミのように使います。舌は頭の骨をぐるっとまわってついていて、普通の鳥の4~5倍も長くのばすことができます。舌先には、かぎ状の棘があり、木の中にいる・・・幼虫などを引っ掛けて取り出して食べます」・・・と解説されている。
▲新緑に輝く谷(小阿仁川水系、上小阿仁村)
▲初夏の渓流(小阿仁川水系、上小阿仁村)
▲新緑の谷(太平山系、秋田市河辺町)
▲トチノキ(小阿仁川水系、玉川水系)
 渓流沿いに生える代表的な樹木で、夏に果実ができる。秋に熟すると、種子をすりつぶして「トチモチ」などの材料として利用されている。右下の写真は、トチノキの葉と落下した果実。大きな5枚の葉は、天狗の持っている団扇に似ている。
▲サワグルミ(白神山地、八幡平)
 その名のとおり、沢沿いの湿った場所に多く見られ、渓畦林を構成する代表的な樹木。細く尖ったギザギサの葉が特徴。材は燃えにくいことから、山小屋の骨組みなどに利用された。マッチの軸やキリの代用として下駄材に盛んに利用された。
▲マイタケが生えるきのこ木・ミズナラ
 ブナ科の落葉高木で、葉がギザギザのノコギリ歯をもつ独特の形をしている。樹皮は黒褐色を帯び、縦に不規則な裂け目がある。ミズナラは、水分が多く、燃えにくいことから、その名がついた。ブナより遥かに寿命が長く、巨木になる。別名「オオナラ」とも言う。果実はドングリとなり、リスやクマなどの餌となる。

 ブナとミズナラは混生する木だが、性格は全く異なる。ブナは陰樹、ミズナラは陽樹と言われる。陰樹とは、暗くてもゆっくり成長を続けられる樹木で、その代表がブナ。ミズナラは、親木が大きく成長すると、いくら種を落としても足下が暗く、すぐに枯れてしまう。だから多くのミズナラ林は、ブナ林にとって代わられる傾向にあるという。
▲天然秋田杉(和賀山塊)
 秋田県はスギの産地で産地名を冠して秋田杉と呼ばれている。和賀山塊は、地形が険しいゆえに、比較的広大な原生林が残っている。今では希少となった天然秋田杉のまとまった森を鑑賞できる。
▲桃洞スギ原生林(森吉山系、北秋田市森吉町)
 通常秋田スギは標高600~700m以下に分布しているが、桃洞スギは800~950mの豪雪高山地帯に分布する耐寒耐雪性品種として珍しいと言われている。
▲秋田杉の巨木(男鹿市滝の頭)
 滝の頭湧水の沼周辺では、遊歩道を散策しながら杉の巨木と清冽な湧水を気軽に鑑賞できる。杉の樹皮は赤褐色で縦に長く裂け、老木になると丸くなる。
▲滝の頭湧水(男鹿市)
 寒風山(標高355m)の北東麓に「滝の頭」と呼ばれる湧水群と清水を満々とたたえる沼がある。名水とは言っても、他の名水と大きく異なる点は、寒風山麓の総湧出量の7割・一日あたり約2万5千トンという膨大な湧水量にある。

 湧水のメカニズム・・・寒風山は溶岩流からなる火山で、滝の頭は溶岩流の末端部に位置している。この溶岩には、無数の割れ目が発達。雨が降れば、割れ目に滲みこみ、溶岩の基盤となっている水を通さない堆積岩層につきあたると伏流水になって、溶岩流の末端部である滝の頭から湧出する。
▲滝の頭湧水を利用する円形分水工(男鹿市)
 滝の頭湧水は、古くから農業用水や飲料水に利用されてきた。円形分水工の穴から流れ出す湧水は冷たく、清冽そのもの。昭和30年代に設置されたものだが、飛沫を浴びるコンクリートの周囲は苔生し、清冽な水の歴史を感じさせてくれる。
参 考 文 献
「滅びゆく森・ブナ」(工藤父母道著、思索社)
「森林彩時記 森を知ろう、森を楽しもう」(北村昌美著、小学館ライブラリー)
「ブナの森と生きる」(北村昌美著、PHP選書)
「ブナ帯文化」(梅原 猛ほか、新思索社)
「クゥとサルが鳴くとき」(松岡史朗著、地人所館)
「山でクマに会う方法」(米田一彦著、山と渓谷社)
山渓カラー名鑑「日本の樹木」(山と渓谷社)
自然観察シリーズ22「日本の両生類・爬虫類」(小学館)
「田代の行事食」(田代婦人部、平成6年3月4日)
「勝平得之作品集 版画[秋田の四季](井上房子、勝平新一、秋田文化出版)

 

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