秋田県雄勝郡羽後町新成小学校の自然観察会
 2005年5月20日、秋田県自然環境保全地域に指定されている刈女木(ガリメギ)湿原で、羽後町新成小学校3年生の自然観察会が催された。案内するのは、この湿原を発見した藤原正麿先生。

 この湿原は4つの沼からなり、古くから下流水田の貴重な農業用水として利用されている。平成11年、最上流の沼が土地改良総合整備事業で改修された。一帯は、自然環境保全地域であることから、藤原先生の指導を仰ぎ、貴重な湿原を維持保全する方向で実施された。最近、環境に配慮した土地改良事業の先駆的な事例として注目されている。
 入り口にある案内看板の前で、子供たちに刈女木(ガリメギ)湿原の概要を説明。田代小学校の教員だった藤原先生は、昭和48年夏、湿原を発見した。以来、二ヵ年にわたり調査を実施。湿原の植物は、新種ガリメギイヌノヒゲのほか、ザゼンソウ、ミズチドリ、モウセンゴケ、トキソウ、サワギキョウ、リンドウ、トンボソウ、サワラン、ミズギクなど64種にも及んだ。
 昭和51年3月30日、秋田県自然環境保全地域に指定された。主な特色は、典型的な低層湿原で、原野と山地性植物、湿地植物が共生していること。種類が多く、64種に及ぶこと。早春から晩秋にかけて、常時花が見られることなどが高く評価された。
 藤原先生は、現在、環境カウンセラー、自然観察指導員、生涯学習インストラクターなど、多数の肩書きを持ちながら環境保全活動に尽力している。概要を説明した後、藤原先生自ら作成したカラー版の「刈女木(ガリメギ)湿原の花たち」が配布された。特に6月、レンゲツツジが盛りの頃は美しいという。
 入り口から沼周辺の樹木、草花などをじっくり観察しながら、のんびり歩く。まるで昔の遠足のように楽しいひとときがスタート。
 チョウジザクラ(丁字桜)・・・3~6mの小低木で、花は白色、時に淡紅色を帯びる。満開時でもまばらに咲き、地味な印象を受ける。若葉は、褐色を帯びた黄緑色。藤原先生は、花を一輪手に取り、小さな花弁の形が「丁(チョウ)の字」になることを説明し、名前の由来を説明してくれた。
 左は、たくさんの花を咲かせたヤマザクラ。右の写真は、藤原先生が対岸に咲くヤマザクラの花を指し示しているところ。ヤマザクラによく似た野生のサクラは、オオヤマザクラやカスミザクラなどがある。
 左:イタドリとワラビ
 右:バッケのオスとメスの見分け方・・・バッケにもオスとメスがある。左の小さい方がオスで、右の大きい方がメス。メスは、花が終わると生長して高さ40cmにもなり、たくさんの冠毛をつけた果実ができる。ほどなく、風で飛び散り子孫を増やす。芽を出したばかりの頃は、見分けが難しい。オスは、頭花が黄色っぽく、メスは、やや白い。
 キクザキイチリンソウ・・・下から二つ目の沼の土手に群生していた。花の色は、白と淡紫色の二種。藤原先生は、土手に捨てられた空き缶を指差し、子供たちにこう語った。「花は美しいが、ゴミを捨てる人の心は決して美しくない。皆さん、こんなことをしてはいけませんよ」
 イヌガンソク・・・右が去年のほう子葉で、飛んでいる雁(ガン)の足のように見える。
 第二の沼・・・沼の対岸には、春の陽光にミツガシワの若葉が萌え出ていた。
 ミツガシワ・・・上と右下は、萌え出たばかりの若葉。葉は三枚の小葉からなり、楕円形で質が厚い。今年は雪解けが遅く、花が咲くのは5月下旬頃だという。左下は、葉が芽吹く前の茎で、まるで春の陽光に踊っているような不思議な形をしている。
 右:マンサクの花・・・早春の山で一番早く開花する。名前は、群れをなして咲く花を「豊年満作」に例えたという説と、真っ先に花が咲く「まんず咲く」が転じたという説がある。花弁は細長い線形で4個、根元はやや赤みを帯びる。
 左:ウリハダカエデ・・・樹皮は、暗緑色でなめらか。縦に黒い筋がある。木肌が瓜(ウリ)に似ていることから、この名が付いたという。

 右:コナラ(ぶな科)の若葉と花
 第三の沼・・・この堤防より上流部が秋田県自然環境保全地域に指定されている。「この水は何に利用されているか分かる?」「・・・田んぼ」「そうだ、正解」。昔の人は、上流から下流に向かって流れに直角に4つの堤防を築いた。一番上の沼が一杯になると、溢れた水は下流の沼に溜まる。そうして順次4つの沼に溜めていく。稲作に必要な水を効率的に貯水し、冷たい水を温め、田んぼにかんがいしている。雪国に暮らす先人たちは賢い!
 土手に生えていたメス株のバッケを手に取り、これを食べると美味しいよ、と子供たちに教えているところ。頭の果実部分と葉を取り除き、塩蔵してから食べると美味いとのことだった。
 第四の沼・・・ここより上流部が湿原の核心部。老朽化が著しかった堤防は、平成11年に改修されている。ちょっと気になるは、周辺部に植林された杉林。林床に光が当たるように間伐が欠かせない。沼周辺の湿原を守るには、村ぐるみの管理が欠かせない。
 どの点が湿原の環境に配慮しているのだろうか・・・農家にとっては、できるだけ堤防をかさ上げし、水位を高くしたい。しかし、貯水位が高くなると、湿原は水没し、貴重な植物は絶滅しかねない。渇水の時は、沼の水を一滴残らず取水したい。しかし、それでは湿地の植物が皆枯れてしまう。つまり、改修前の水位変動を極力維持できるように設計施工された。

 左は取水口。改修前の最低水位を維持。右は、改修前の最大水位を維持できるように改修された余水吐・・・藤原先生は、自然保護と開発が共存したモデルケースだと語ってくれた。
 ヒルムシロ・・・沼に繁茂していたヒルムシロ。泥の中にある根茎は伸びて、水面に浮く葉と水中に沈生する葉をつける。水面上の葉は、長楕円形で水面上を埋め尽くすように繁茂する。名前の由来は、繁茂した葉をヒルの居場所にたとえたもの。
 刈女木(ガリメギ)湿原の核心部・・・第4の沼の左岸にある小道を歩いていくと、湿原の核心部に出る。湿原の植物を踏み荒らさないように、木道が設置されている。今年は、いつになく雪解けが遅く、ザゼンソウ以外は、まだ花が咲いていなかった。藤原先生によると、今年は5月下旬以降が見頃とのことだった。
 湿原の中を蛇行しながら流れる清らかな水。春の陽射しを受けて、キラキラと輝く。太陽の光が水の底まで届く。だから人間と同じく、植物も清流が大好き。
 ミズゴケ・・・せせらぎの流れと湿地周辺には、ミズゴケがビッシリ生えている。一時期、心無い人たちに乱獲され激減したが、村人たちの注意と監視によって蘇ったという。清らかな水辺の空間を埋め尽くすミズゴケに心も潤う。
 湿地に顔を出した植物(左:サワオグルマ 右:ハナショウブ)・・・サワオグルマの花期は、5~6月で黄色の頭花をつける。ハナショウブの花期は、6~7月頃。
 小沢の斜面一面に広がるザゼンソウの大群落。湿地の左岸から流入する小沢は、源流部までザゼンソウ、ザゼンソウ・・・足の踏み場もないほど群生の規模は巨大だ。普通は、ミズバショウとともに群生しているケースが多いけれど、この小沢は、ザゼンソウのみが優占している。これは極めて珍しい。刈女木湿原の大きな特徴の一つと言える。
 葉は根から数本生え、葉柄の脇から紫褐色の仏炎苞(ブツエンホウ)を開く。その中の肉穂状の花軸に小花をつける。まるで僧侶が座禅をしているように見えることからこの名がついた。別名ダルマソウとも言う。
 ヤマドリゼンマイ・・・奥に行くと春の陽射しに芽を出したゼンマイが群生していた。一つ一つが、まるで交響楽団のように整然と並び、音を奏でているようにも見える。
 刈女木(ガリメギ)湿原に数え切れないほど学び、帰路につく子供たち。地元の偉大な湿原を知り、子供たちの誇らしげな笑顔が印象的だった。
 最初は苦しげだった子どもたちも、自然観察が終わると、やけに足が速かった。これは、子供たちが、アップダウンが続く山道で汗を一杯かき、待ちに待った春を謳歌する草花たちに元気をもらったからに違いない。「ありがとうございました」・・・と植物に造詣が深い藤原先生に深々と頭を下げた。

 藤原先生は、道端のあちこちに捨てられたゴミを一つ一つ丁寧に拾っている姿が印象に残った。この湿原を愛する真摯な姿勢に、羽後町土地改良区の事務局長は、堪らず先生が拾ったゴミを手に持った。今度は、自然観察をしながら、ぜひクリーンアップをしたいと思った。そして藤原先生のように、四季折々、湿原に生息する多様な植物たちとお話ができるようになりたいと思った。
 

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